EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
かつてデロイトトーマツコンサルティングで高成長を実現してきた近藤 聡氏が、EYJapanに参画して2年弱。 「今のEYには、プラクティスをこれからビルドできるワクワク感を求めて、優秀な人材が集まってきている」と近藤氏は語る。 自身のキャリアやEYに参画した経緯、成長戦略である「プロジェクト・ドラゴン」、EYの強みについて話をうかがった。
INDEX
コンサルタントとして、「自分のクライアント」をもつ意味を実感した
大森
キャリアのターニングポイントを教えてください。
近藤氏
若手の頃に、父親ほど年齢が離れた大手外資系企業のフェロー(研究職)の方が責任者をしているプロジェクトにアサインされたときのことです。専門的な分野で四苦八苦しながら一人で対応していました。 冷や汗の連続で、自分でやり切るのが難しいと考え、私をアサインした出張中のマネージャーに相談しようと、新幹線に乗り、そのマネージャーがJobをしていた名古屋へ行きました。しかし、マネージャーの返事は「近藤さんのクライアントなのに、近藤さんがやらなかったら誰がやるの?」という一言だけでした。会話は2~3分。 帰りの新幹線に乗り込んだ時には「じゃあ、どうしたらいいんだよ」と怒り心頭。 しかし、新幹線が東京へ向かううちに、“君のクライアント”という言葉が思い起こされ、「別の人が担当したら、あのクライアントはどうなるんだろう。たしかに自分がなんとかしなければ」という気持ちになっていきました。 気持ちを切り替えた私は、東京駅に着くなり本屋に駆け込み、関連書籍を10冊以上購入。徹夜で読みこみ、アウトプットをクライアントにもちこんだところ、高く評価していただきました。 スタッフはプロジェクトに“アサイン”されることが一般的ですが、私の場合はそれ以降、アサインを単に待っていることはほとんどなくなりました。 クライアントファーストで、インプットをしてアウトプットすることにコミットしていくと、紹介や引き合いの案件が増えていったからです。 非常に牧歌的な時代のエピソードで恥ずかしいかぎりですが、「コンサルタントとして、自分のクライアントをもつ感覚とはこういうことか」と実感できた瞬間でした。
大森
コンサルタントとしての醍醐味を感じられた出来事だったのですね。
近藤氏
次の転機は、30歳のときに携わった金融系のプロジェクトでのことでした。 私が担当するプロジェクト自体は小規模でしたが、同じクライアントで別の大きなプロジェクトの企画が水面下で進んでいることを知りました。 「あのプロジェクトを絶対に受注したい」と考えた私は、担当しているプロジェクトをやりきりながら、なんとか提案の機会を得ることに成功。 結果、多くのパートナーや自分より上位ランクの人が提案作成に関与しましたが、なかなかまとまらず、最後は提案書をひとりでまとめ上げて、ピーク時には、様々な会社から二千数百名以上が関わる数百億規模のプロジェクトを受注しました。 その直後にマネージャーに昇進。大規模なプロジェクトだったので、パートナーも5、6名加わり、自分自身も数十人のメンバーをマネジメントする状況となりました。
このプロジェクトを通じて身につけたことは、徹底的にロジカルであることと「情」、そしてケンカのやり方。ケンカというと少し物騒ですが、「このタイプの人にはどこまで踏み込んでもよいかという人との距離の取り方」を見極められるようになりました。 具体的にいえば、このプロジェクトでは4社以上のコンサルティング会社や大手ITべンダーが関わっていて、それぞれカラーが異なり、会話の理解度やスピード感がまったく違っていました。一言で言うと、会話が通じない。。。 私はこうしたコンサルティング会社やITベンダーを仕切り、全体を統括するポジション。ときには、じぶんより20歳ほど上のプロジェクトのキーマンに、みんなの前で詰め寄り、怒らせたことも。 その方に、翌日に別室に呼ばれ、「あの件は自分が申し訳なかった」と言われて和解したこともありました。こうしたアプローチはときには失敗することもあり、嫌われてしまったことも(笑) しかし、このプロジェクト、恰好つけているとどうしようもない修羅場を通じて、仕事の規模や自分の考えをぶつけることが怖くなくなり、人とのコミュニケーションを学び、人材育成に関する自分の考え方を固めることができました。 このプロジェクトは当時の会社の売上の半分以上にもなる巨大なプロジェクトとなり、このプロジェクトを完了した35歳のときにパートナーへと昇格。 その後は、グローバルでクロスボーダーな仕事を経験したいと考え、製造のインダストリーを立ち上げ、東南アジアでの仕事も経験しました。
デロイトを経験したからこそ、EY Japanで面白い仕事ができると思った
大森
近藤さんといえばデロイトトーマツコンサルティング(DTC)、というイメージが強いのですが、EYに移られた背景を教えてください。
近藤氏
DTCでCEOとして経営を10年弱やりましたが、その後全く違う役割を打診されたことがキッカケでした。従業員と一丸になって、リスクを負いながら舵取りをしてきた私にとっては、チャレンジさを感じる役割ではなく魅力を感じませんでした。私自身、根っからのチャレンジャー気質なんだと思います。 そのため、違う道を探してみようと思いました。実は、ビジネス界から引退し、本気で猟師になろうかとも思ったのですが(笑)、強烈に周りから反対されて断念しました。 事業会社、コンサルファームの役員、外資系企業の社長などの話がありましたが、経営者的役割で効果を出せる最低限の前提が整っており、かつ、一番チャレンジが大きそうな選択をしました。EY Japanは、サービスラインの整理を行い、バラバラだったオフィスもひとつの拠点に集結する変革のタイミングだった。前職での自分の役割の変更とEYの歴史的転換点というタイミングが偶然に合うという縁があったということだと考えています。
大森
入社後は、どのような業務をされたのでしょうか?
近藤氏
EY Japanのリーダーシップの一員として入社しました。 よっぽどアグレッシブだと思われていたのか、「まずは色んなサービスラインの人と仲良くなってくれ」と言われていたので、最初の1ヶ月ほどはFinancialな状況を確認したり、アカウントの会議など様々な場に出席するなどさせてもらっていました。
すると、EYのやりたいことを達成するには、やるべきチャレンジは何か?が自分なりに見えてきました。 本気でやるなら作戦を立てようということになり、現状の整理と課題の設定から始めました。 実は、EYの置かれていた状況は、監査法人の子会社で規模が小さかった頃のエピソード、アカウントへのフォーカスの仕方、アウトバウンドへの対応、パートナー意識の醸成などなど、前職でのファーム経営経験においてどこかで見たことがある景色でした。 そうして、EYに参画後、半年ほどでEYのリーダー陣と一緒に作り上げていったのが、日本、そして、グローバルの双方からのコミットメントを得た、EYでは「プロジェクト・ドラゴン」と呼ばれる成長プランです。
テクノロジー領域に偏った規模拡大は目指さず、ビジネスコンサルティングを伸ばしていく
大森
「プロジェクト・ドラゴン」は、どのような内容なのでしょうか?
近藤氏
私が入社したとき、EY Japanの国内売上の半分以上は監査でした。 しかし、監査以外がその規模では小さすぎて、競争になりません。現に、前職ではEYと競合した記憶がありませんでした。 今後のマーケットにおいて、まずはEYのプレゼンスを出すための最低限のラインを目標としました。 私がDTC出身ということもあり、「EYでもDTCでの戦略と同じことをやろうとしているのでは」と誤解されることがありますが、それはまったく違います。 今のDTCとEYSCでは企業のステージや世の中のトレンドなどの外部環境が違うため、取るべき戦略も必然的に異なります。 EYSCでは、後発であること、またそれ以上に、クライアントのポートフォリオが異なるため、テクノロジー領域における規模拡大に偏りすぎると、独自性を出すことができないと考えており、そのためにも、ストラテジーやオペレーションなどのビジネスコンサルティングを更に伸ばす必要があると考えています。
大森
BIG4と比較したEYの強みを教えてください。
近藤氏
EYの特徴は、グローバルとのコネクションが非常に強いこと。 BIG4はどこもグローバル連携はありますが、EYは各種のオペレーションがグローバルで統一されており、合議的なカルチャーとあいまって、サービスラインや人と人の垣根が非常に低いのが特徴だと思います。普通に英語ベースの会議が日々行われているのも驚きでした。 それが故だと思いますが、ダイバーシティも浸透していて、外国籍や女性の社員比率も高い。 しかし、EY Japanは、日本における歴史は長いものの、さまざまなサービスラインが集結してからはまだ数年ですので、新しいファームとも言えます。 ある意味、非常にブランドが立っており、プレゼンスの高い、EYグローバルに、カルチャー、オペレーション、戦略すべてを合わせようと奮闘している過程だと思います。 そういった意味では、日本においては、監査以外のサービスはBIG4の中では少し遅れた段階にあるともいえますが、だからこそメンバーにとってはプラクティスをこれからビルドできる環境でもある。ここに面白さがあります。
私自身、「自分のクライアント」といえる企業と出会い、冷や汗をかいたり、ファームの代表として眠れぬ夜を過ごすなかで、コンサルタントとして、そして経営者として大きく成長できました。こうした経験が、自分のビジネス人生においてかけがえのないものとなっています。 今のEYSCは、コンサルタントがそうした経験を積みやすいフェーズにあります。
大森
どんな人材にジョインしてほしいですか?
近藤氏
プラクティスチームをビルドすることで、コンサルタントとしてさらに経験を積みたい人にジョインしてほしいですね。 実際に、ワクワクを求めてほかのファームから転職してくる人も増えています。 そういったチャレンジ精神や起業家マインドがある人、一緒に戦略を考え、プラクティスビルドをやりたいパートナーが揃ってきているので、活性化してきています。 逆に、既に完成していて組織やカルチャーがしっかりした大手に入りたい人には合いません。できたばかりの会社に入るような感覚をもって入社してほしいと考えています。 EYには、より良い社会を構築するという意味の「Building a better working world(EY内では、BBWWと呼ぶ)」というパーパスがあり、非常に強いこだわりがあります。各社とも、パーパスや理念を持っていると思いますが、EYがBig4の中では、最初にパーパスステートメントを設定したと聞いており、その存在意義への拘りは本物だと感じます。 環境や疫学・地政学等の外部環境の激変に対峙するため、ESGやSDGsといった根本概念から本気で戦略を立案しようとする企業のトレンドに非常にマッチする考え方で、それを存在意義として掲げるEYはフロントランナーと言っても過言ではない。 短期的なインパクトのみを残すのではなく、数年、いや世代をかけて社会をより良くしていくという考えに共感する、気概あふれる人にきてほしいと思います。
大森
DTCで長く成長戦略を実現されてきた近藤さんが、EYSCという新天地で手腕を振るわれることで、今までとは違ったEYJapanの姿が見られるのではと感じました。
構成・編集:久保佳那 撮影:櫻井文也