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KPMGコンサルティング株式会社

KPMGコンサルティングの社長に就任し4年目となる宮原 正弘氏。これまでの3年間は多様なバックグラウンドをもつ社員たちとビジョンを共有し、一枚岩の組織を作っていくことに注力してきた。「さまざまなバックグラウンドをもつ社員が集まるKPMGだからこそ、ダイバーシティとリスペクトの精神を大事にしている」と宮原氏は語る。 宮原氏のこれまでのキャリアやKPMGの特徴、今後の展望についてうかがった。

アウェイの環境で信頼を勝ち得たことが、コンサルタントとしての自信につながった

大森

宮原さんのキャリアのターニングポイントを教えてください。

宮原氏

私にとってのキャリアのターニングポイントは大きく3つあります。
1つ目は、4年半公認会計士として旧朝日新和会計社(現 有限責任あずさ監査法人)で働いた後、 アーサーアンダーセンと合併してビジネスコンサルティング部門が立ち上がったときに、 自ら手を挙げてビジネスコンサルティングの部署に異動したことです。 公認会計士として一通りの業務を覚え、なんとなく自分のキャリアの先が見えた気がして、 ほかのことにチャレンジしたくなったことが動機でした。 当初は1年のつもりでしたが、仕事が面白くなり結果的に4年間BPRにフォーカスした業務を経験し、 ERPの導入なども行いました。

印象に残っているのは、アンダーセン米国事務所が契約をした、当時日本では普及していなかったERPを、 世界各地で導入を進めるプロジェクトに携わったときのことです。 まったく経験のないソフトウェアパッケージであることに加え、クライアントの日本法人は現状に満足していたので、 積極的に導入したいわけでもない。 そんな状況下で、当初は自分やプロジェクトの存在価値をクライアントに示すことに苦労しました。

そこで私が実行したのは、中立の立場でクライアントとベンダーとの間に入り、 クライアントにとって価値の高い要件を反映していくこと。 足かけ1年半のプロジェクトでしたが、プロジェクト終了時に私がクライアントを 去ることを惜しんでいただけるような関係性を築くことができ、 また、世界各国の中でも成功した国のひとつとなりました。 付加価値を出すことを目標に一生懸命取り組めば、認められることを学び、アウェイの環境で信頼を勝ち得たことで、 コンサルタントとしての自信が芽生えました。

大森

宮原さんはあえてアウェイの環境に飛び込まれたのですね。日本だけでなく海外でのプロジェクト経験もあるとうかがいました。

宮原氏

アンダーセンの海外事務所で働くことのできるモビリティプログラムに参加しました。 英語力は圧倒的に不足しており、完全なサバイバルイングリッシュでしたが、 デトロイト、サンディエゴやロス近郊などで1年半仕事をしました。

アメリカでの仕事を終え、私が日本に戻ってきた2000年は会計ビッグバンといわれた時期です。 日本の会計基準が世界基準に追いつく流れがあり、会計士として乗っておくべきだと感じ、 監査法人に戻りました。 そこでは、ビジネスコンサルティングで学んだプロジェクトマネジメントやプロセスの立て直しを監査のフレームワークに応用し、 マネジャーへと昇進。 いわゆる「先生商売」のような感覚が強かった監査の仕事に、「クライアント=ビジネスパートナー」の考えを取り入れ、 現場からクライアントとの向き合い方や姿勢を変えることができました。

その後、内部統制(いわゆるJ-SOX)が企業の課題となったときには、 クライアントへの内部統制の構築支援に関する提案、実際のプロジェクトも経験。 現在の当社は、MC(マネジメントコンサルティング)とRC(リスクコンサルティング)の両輪のサービス提供を行っていますが、 両方の経験を現場で積むことができました。

大森

宮原さんの多様な経験をうかがうと、常にアウェイの環境を前向きに捉えているように感じます。

宮原氏

アウェイの環境でさまざまなプロジェクトを経験してきたことが、 今のKPMGコンサルティングの経営方針にもつながっている部分があります。

2度目の転機は、IFRS (国際財務報告基準)の導入アドバイザリーを支援する新規部署の事業部長を任されたこと。 個人的にはIFRSのことはまったくの素人でしたが、監査を中心に仕事をしてきた会計士とコンサルティングバックグラウンドのプロフェッショナルを合わせて約80名でスタート。 2年後には、IFRSに関するサービスに加えて、財務経理のプロセス改善や情報システムなどにも範囲を広げ、 M&Aアドバイザリー部門と合流し、7年間で200名を超える組織になりました。

そして、3度目の転機は、2017年7月にKPMGコンサルティングの社長になったことです。 当初は監査法人の所属のまま出向するという話でしたが、その当時KPMGコンサルティングは設立して3年目で約600人の社員を擁する組織。 常勤で自身のすべてをかけて没頭しなければ勤まらないと考え、転籍をしました。 それから3年半が経ち、2020年で4年目になりました。

KPMGコンサルティングほど、多様なバックグラウンドの人材が集まっている組織はない

大森

KPMGの代表になられて感じたことはありましたか?

宮原氏

長く所属してきた監査法人は会計士が中心の組織であるため、文化が均質化しています。
しかし、KPMGコンサルティングは戦略、業務改革、情報システム、ガバナンス、リスク管理、セキュリティ、先端技術などに関わる多様な人材で構成されています。 さらに、他のコンサルティングファーム、情報システム系の会社に加え、金融機関や事業会社出身など、職歴の多様さも特徴のひとつです。

KPMGコンサルティングは、2014年の設立当初の社員数が200名程度、現在は1,200名ほどの社員がいるので、約6年間で1,000人以上の多様な社員が入社していることになります。これまで中途採用を中心に急速に成長してきましたが、ここ数年は将来の当社の幹を形成するべく新卒採用にも力を入れています。

こうした環境もあり、ダイバーシティの重要性を強く感じていて、国籍、性別、前職での経験や世代の差をこえてオープンでフラットなコミュニケーションができる組織であることを重視しています。

大森

多様な方々が集まってこられているのですね。社員の方にどのようにダイバーシティの重要性を伝えられていますか?

宮原氏

私が社長に就任したときから、社員に話し続けていることがあります。
1つは「オーナーシップ」 プロ意識や当事者意識をもって仕事に取り組むこと。
2つ目は「リスペクト」 さまざまなバックグラウンドに基づく多様な価値観をもつ社員同士がリスペクトし合うこと。
3つ目は「コラボレーション」 クライアントの複雑な経営課題を解決するために、社内の連携を強めること、です。

大森

KPMGさんらしい指針です。他のコンサルティングファームとの差別化については、どのようにお考えですか?

宮原氏

私が社長になってからの3年は、さまざまなバックグラウンドの社員たちとビジョンを共有し、一枚岩の組織を作っていくこと、求心力をもち、自立自走する組織を目指してきました。 そして、ここからの3年は、マーケットに対しKPMGらしさを訴求し、差別化を行っていきたいと考えています。

具体的には、マーケットにおいて4つの軸をもちたいと考えています。
1つ目は「中立性」 企業変革をサポートするソフトウェア等を限定せずに、幅広くビジネスパートナーとのアライアンスを組み、クライアントにとってベストなサービスを提案すること。

2つ目は「リスクの観点」 ビジネスモデル変革や業務改革などには、常にリスクをマネージすることが必要です。当社が提供するサービスには、常にその観点を忘れないということです。マネジメントコンサルティングが「攻め」なら、リスクコンサルティングはいわば「守り」。部門間の垣根の低いKPMGだからこそ、この両輪一体としてクライアントに提案できます。

3つ目は「グループ力」 中途入社の社員が口を揃えて言うのが、KPMGは、監査やM&A、税務のグループ会社との連携がしやすいこと。マネジャー昇進時のマイルストーン研修やリーダーシップ研修などを合同で行うなど、横のつながりを作りやすい環境が整備されています。 クライアントの課題は複雑で多様化しているので、1人のパートナーだけで解決できることは少ないです。こうした課題解決のためにもコラボレーションによるグループ力はますます重要になっています。

4つ目は「デジタル」 KPMGに頼めば、すべてのサービスに自然と最先端のデジタル活用の要素が織り込まれている提案をしていくことです。

大森

こうした特徴はほかのコンサルティングファームにも共通しますが、どのような点に違いがありますか?

宮原氏

1つずつの要素は、ほかのファームも実現、主張しているかもしれません。しかし、これらすべてを一体として、真に付加価値としてクライアントに提供してくことが差別化につながっていくと信じています。 ほかの特徴としては、KPMGはその生い立ちにより、米国がリードする文化ではなくさまざまな国々が隣接しているヨーロッパ大陸文化であり、各国の考えや価値観を尊重している点があげられます。たとえば、海外の会議においても日本のプロフェッショナルが非常に発言しやすく、互いの考えを理解し合おうという文化があります。

その帰結として、日本のファームが、日本企業に真摯に向き合い、付加価値の高いサービスを提供していくことが後押しされています。パートナー同士のコラボレーションも加速しやすく、すべてのパートナーが、互いに顔と名前がわかるのは当然のこと、相互にお互いの価値観を理解できるような距離感で働いています。

こうした風土を好んで、同業他社から転職してくる人も多いです。 売上や人数規模をいたずらに追うのではなく、社員ひとりひとりを大切にすると共に、クライアントの健全な成長に貢献することを第一に考え、クライアントとの長期的なリレーション構築を実現したいと考えています。

ダイバーシティを進めた先に、明るい未来や新しいソリューションが待っている

大森

とくに注力している分野やテーマはありますか?

宮原氏

昨年から、とくに力を入れているテーマが3つあります。
1つは、5GやMaaSなどを含むスマートシティ。 自治体や、大学、企業、スタートアップ等とエコシステムを構築して取り組んでいます。
2つ目はスポーツ分野。 国の政策との整合をとりながら、ひとの生活を豊かにするスポーツ分野においても、 各関係者と連携しています。また、eスポーツも新しいマーケットとして積極的に関わっています。
3つ目はSX(Sustanability Transformation)で、今後さらに力を入れていきます。
当社の組織は、サービスラインとセクターのマトリックスになっていますが、これらの取り組みは、現在、 組織を横断した社内プロジェクトとして実行されています。

大森

さまざまな取り組みを進める御社が、今後joinしてほしい人物像を教えてください。

宮原氏

大前提として、女性やLGBTQ、外国籍の方はもちろん、金融機関や事業会社で働かれている方など、 いろいろな価値観を持った方々に、どんどんjoinしてほしいです。クライアントの経営課題が複雑化、 多様化していく中で、我々コンサルティングファームも多様な人材、価値観をコンサルティングサービス そのものに反映させていくことが重要です。 ダイバーシティマネジメントは、時にハレーションを起こすなど困難なこともありますが、 これを成功させることによって、明るい未来とより大きな価値を生むサービス提供が実現できると考えています。

求める素養としては、専門性も重要ですが、人間力やコミュニケーション力があり、周囲を巻き込める求心力のある人。 たとえば、先ほど話したeスポーツは若手社員が将来のマーケットの可能性を感じて、熱く提案してきたことが始まりで、 今ではこの分野における当社の存在感は大きくなっています。 このように、熱意でビジネスを作り上げていける人にもjoinしていただきたいです。

クライアントの課題は複雑化しているため、1人のコンサルタントで解決することは難しく、 社内のコラボレーションが必要不可欠です。さまざまな経験やバックグラウンドをもつ人と協業していくため、 多様な人材を巻き込み、リードできる人を求めています。

また、若いメンバーが多い「AIT(Advanced Innovative Technology)」というチームでは、 AIを活用した数多くのアイデアが生まれ、大手企業とのコラボレーションも進んでいます。 当社は出る杭を伸ばす社風。やる気がある人をどんどん伸ばし、若手も生き生きと働けるようにしたいと考えています。 責任と役割を果たしたうえでやりたいことを自発的に提案、挑戦し、それを仕事にできたら、 モチベーション高く働けます。

大森

ご自身もアウェイの環境の中でビジネス人生を歩んでこられた宮原さんだからこそ、KPMGのダイバーシティを大事にする風土が根付いているのだと実感しました。

左:KPMG宮原氏 右:弊社大森

構成・編集:久保佳那
撮影:赤松洋太

※本記事の内容はすべて取材当時のものです。