デロイトトーマツコンサルティング合同会社
2019年に同社の代表執行役社長に就任した佐瀬 真人氏は「私のターニングポイントには逆風が吹く」と語る。パートナーになった2008年にはリーマンショックがおき、2019年に代表になった翌年の2020年にはCOVID-19の影響を受けた。
しかし、「ピンチはチャンスであり、逆に思いきった手が打ちやすい時期だと捉えている」と佐瀬氏は語る。自身のキャリアや今後の展望、求める人物像について話をうかがった。
INDEX
起業を考えていたが、コンサルタントの醍醐味を経験して抜け出せなくなった
大森
佐瀬さんが、コンサルティング業界を選んだ理由を教えてください。
佐瀬氏
2000年に当社の前身となるトーマツコンサルティングに新卒で入社。 実は、最初からコンサルティング業界に行こうと思っていたわけではなく、マーケティング・コミュニケーション関連の仕事につきたいと考えていました。 大学でメディアや映像を学んでいたこともあり、マーケティングをアートのような右脳的に変換できる仕事に興味があったからです。 就職活動を進めていくうちに、さまざまなビジネスに関わりを持つことができ、改善、開発、変革といった支援ができるコンサル業界に強い興味を持ちました。
大森
入社時は、数年たったら起業しようと考えていたそうですね。
佐瀬氏
そうなんです。 しかし、クライアントバリューをダイレクトに感じられるコンサルタントの醍醐味を、 キャリアの早いタイミングで実感したことで、コンサルティング業界から抜けられなくなりました。 そして、パートナーとして仕事をしていると、ある程度一緒にやるコンサルタントが決まってくる。 若いコンサルタントたちが価値やケイパビリティを身につけ、コンサルタントとして皮がむけていく瞬間に立ち会えることにもやりがいを感じました。
大森
どのようなキャリアを積まれてきたのでしょうか。
佐瀬氏
私は長く自動車業界のクライアントを担当してきました。 入社した頃は自動車業界の変化も大きい時期。日本企業が外資系企業の傘下に入り、グローバルスタンダードに合わせた企業変革を 行っていくプロジェクトなどに携わりました。 当時の自動車産業において、日本はものづくりの強さはあるが、経営はうまくいっていなかった。 日本のビジネスパーソンとして歯がゆさも感じていました。 これまで真摯にものづくりをしていた方たちが、望まないことをやらなくてはいけなかったり、 信じてきたことが目の前で崩れていくような様子も見てきました。 しかし、今のままではグローバルの競争に勝てない。そんな中で、自分はどう業界に役立てるかと考える日々でした。 その後、自動車産業はグローバル化が一気に進み、東南アジアや中国への進出が盛んに。 私自身もアウトバウンドのプロジェクトに関わる機会が増えました。 現地の人材に活躍してもらうために、日本の経営をどう伝えていくか。各国に国民性があり、すべてを日本流に染めることはできない。 そのためには、相手をリスペクトして良い面を引き出し、伝えたい要点を浸透させていく必要がある。 そんなグローバルコミュニケーションを学べる機会でした。 入社して5年はインバウンド、その後10年ほどはアウトバウンドに携わり、デロイトの強みであるグローバルな環境を体感しました。
想いをこめた中長期戦略が、数年続くプロジェクトへと成長
大森
とくに印象に残っているエピソードはありますか?
佐瀬氏
2008年にパートナーになってすぐ、リーマンショックが起きたときのこと。 自動車業界への影響が大きく、プロジェクトが次々に止まりました。 へこんでいるわけにもいかず、10年後の2020年を先読みした中長期の戦略を提案することに。 当時のデロイトはクライアントの期待に応える提案をする傾向がありましたが、 この提案では大胆に仮説を立て、クライアントをサプライズさせようと考えました。
大森
どのような内容だったのでしょうか?
佐瀬氏
今では当たり前のことですが、EV化に伴う垂直統合型から水平分業型への産業構造変化やライドシェアプレイヤーの登場、 サブスクリプション型ビジネスに代表されるモビリティサービスの普及などにつながる予測でした。 当時、自動車を売りきることが当たり前だった自動車業界において、将来を先読みしたシャープな内容だったと思います。 クライアントからの評判は非常によく、ぜひやってくれという話になりました。 そこまではよかったんですが(笑)、クライアントからは「提案内容の十分の一の予算しかない、他社はすべて断ってしまったから、なんとかやってほしい」と言われたんです。 単体のプロジェクトとしての採算は厳しい状態でしたが、私自身がこのプロジェクトに強いアスピレーションがありましたし、 クライアントとワンチームになっていた。そこで、一部の反対をなかば押し切る形で、プロジェクトを進めました。 結果、そのプロジェクトは数年続き、10年たった今でもクライアントとの関係も続いています。
大森
熱い想いが伝わるエピソードですね。デロイト トーマツコンサルティング(以下DTC)のパートナーの裁量は、 ほかのコンサルティングファームと比べても大きいのでしょうか?
佐瀬氏
大きいと思います。デロイトグローバルのメンバーファームではありますが、各国のファームは独立した法人であり、 日本に自主権があるため、自由度が高く裁量が大きいと思います。 DTCのメンバーには、その自由度からの恩恵を十分に感じてもらいながら、自分がかつてそうだったように、 広大なグローバルネットワークから様々なキャリア形成上の刺激や機会を得て欲しいと思っています。
DTCの強みは、各業界のトップ企業であるクライアントとの厚い信頼関係
大森
直近のビジネスの環境はいかがでしょうか?
佐瀬氏
足元の業績は非常に好調で、今年度の上期は過去最高の業績を更新しました。 2020年4~6月頃はCOVID-19の影響がありましたが、それ以降はクライアントを支援する機会が増えています。 DTCは業界別のインダストリーグループを中心に普段から採算に関係なく情報提供を行うなど、 クライアントに寄り添うことを基本としていることからクライアントとの関係性が強固であることが要因だと考えています。
大森
ほかのBIG4と比較したDTCの強みを教えてください。
佐瀬氏
クライアントとの厚い信頼関係がDTCの強みです。5年前、10年前と比較してみても、 上位のクライアントは変わることなく、長期取引が続いていて、取引の規模も徐々に拡大しています。 さらに業界のトップ企業との付き合いが多く、私自身が手掛けた案件の中で紹介したように、 豊富な経験・知見に基づき、各業界が目指すべき長期視点での将来像を提言しきる力を有していることが、 クライアントの経営陣から厚い信頼を寄せていただける理由になっていると思います。 また、戦略からオペレーション、デジタル/テクノロジーまで、広いオファリングをもっていて、どんなイシューにも応えられる。 クライアントの変化していくニーズにも、プロアクティブに対応できます。
大森
クライアントのニーズは、どのように変化していますか?
佐瀬氏
まず、エンドtoエンドの支援ニーズが高まっています。DTCは上流の戦略に強いイメージがあったと思いますが、 ここ数年、クライアントは実行や実装まで一緒に実現できるコンサルティングファームを求めるように。 こうした流れを受けて、DTCではデジタル/テクノロジーに強い戦力も強化をしています。 また、COVID-19の影響によって、クライアントは短期間で成果を求める傾向が強まっています。 これまでは構想に半年、実行に1年くらいをかけていたプロジェクトでも、3ヶ月で成果を求められるほどのスピード感です。 そのため、コンサルタントがクライアントのニーズを取り込みながら、アジャイル形式で柔軟に取り組むスタイルが求められています。 そして、AIを活用したデータドリブンなコンサルティングが増加。 これまでのコンサルティングノウハウがプリセットされていて、データをいれると予測できるという仕組みなどが生まれています。 かつて、コンサルタントは山の登り方を示し、登るのはクライアントでした。 しかし、これからはクライアントに伴走して頂点を目指すシェルパのような存在でありたいと考えています。
メンバーが自社に誇りをもつ「メンバーファースト」経営を実践
大森
DTCが求める人物像を教えてください。
佐瀬氏
カバーするインダストリーとオファリングの幅が圧倒的に広いので、多様なバックグランドをもつ人材が活躍できます。 そのため、中途入社のメンバーのバックグラウンドも多様です。戦略ファームやほかのBIG4、ITやテクノロジー系企業、 事業会社などのバックグランドを持つ方もいます。 こうした多様な経験を掛け合わせることで、新しい価値が生まれているので、自分の経験やスキルに自信をもち、 さらに価値として高めていきたい人にジョインしていただきたいです。 そして、昨年からは「メンバーファースト」経営を掲げ、エンプロイーエクスペリエンスの向上をはかっています。 コンサルティングのビジネスには、クライアントとメンバーしかいない。これまでクライアントへの価値提供にこだわってきましたが、 必ずしもメンバーにとってベストプレイスとは言えないこともありました。 しかし、メンバーが自社に誇りを感じて活躍してこそ、クライアントへの価値を最大化できると考えています。
大森
Big4でも売上No.1で強いファームというイメージのあるDTCが、そこまで取り組んでいるのだと驚きました。
佐瀬氏
これまではビジネスとメンバーの双方をパートナーがマネジメントしていましたが、 これらがコンフリクトするとビジネスを優先しがちな面がありました。 そこで、4人の人事担当のパートナーを置き、業績と等価の評価指標として、エンプロイーエクスペリエンスを据えたのです。 さらに、経営陣の通信簿として、自社に誇りを持っているかを数値化する「エクスペリエンスサーベイ」を実施。 この取り組みをはじめてから、自社に誇りを感じるメンバーが15%増加しています。 こうしたメンバーエクスペリエンスにつながる活動をしているメンバーが300名ほど。 社員が約3,600人なので、およそ1割のメンバーが参画する全社施策です。
大森
新しいデロイトとして、風土を変えていこうという雰囲気を感じる施策ですね。佐瀬さんのDNAが加わり、さらに強固なDTCがつくられていきそうです。
構成・編集:久保佳那 撮影:櫻井文也