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グラビス・アーキテクツ株式会社

大手コンサルティングファーム時代に北海道の開発センターを立ち上げ、業績悪化によって閉鎖の指示を受けた。そのときに古見氏が事業と人を引き継いで起業したのがグラビス・アーキテクツ株式会社だ。

「会社に残ってサラリーマンでいるより、思い入れのあるお客さんの案件を責任もって続けていくことを選んだ。それが我が社の重要なキーワードである「Closerであれ」になり今も語り継がれている」と古見氏は語る。自身のキャリアや起業の経緯、同社の描くコンサルタント像、今後の展望について話をうかがった。

自ら立ち上げた開発センターの閉鎖をうけて、人と事業を引継ぎ起業

大森

キャリアのターニングポイントになった出来事を教えてください。

古見氏

象徴的な2つのポイントがあります。
1つ目は、前職のコンサルティングファーム在籍時に公共チームに所属していたのですが、新しく自治体マーケットに進出することになり、そのリードを任されたことです。
そこでは自社の知名度がない分野でゼロからビジネスを作っていく難しさを学びました。

全く仕事が取れず、当時ついたあだ名は「Last SAMURAI」ならぬ「Lost SAMURAI」でした 笑
それでも上司の温かい指導やパートナー企業の協力などもあり、3年で大変多くの仕事を受注することができ、また、そのころから地方を元気にしていくことの大切さを痛感しライフワークになりました。

特に、20代後半に地方公共団体の副市長の補佐官を担当したことは大きな学びがありました。行政経営の当事者としてヒト・モノ・カネの全てのコントロールの権限とその責任を目の当たりにする経験をしました。

2つ目は、当時の会社で北海道の開発センターの立ち上げと撤退の経験です。
社員が約50名程度まで成長したところで会社方針により、閉鎖を余儀なくされました。そのときに、私自身も責任を取り、グラビス・アーキテクツを起業しました。

大森

起業の決断をするまでに迷いはありましたか?

古見氏

会社からは、「開発センターの案件は地元企業に譲渡か売却をして、東京に戻ってきて公共向けのコンサルティングに戻ってほしい」と指示頂きました。しかし、顧客へのサービスを途中で投げ出すことは一生負い目を感じて生きていくことになってしまう。
そこで、会社に残るのではなく、責任をもって顧客との仕事を全うすることを選び、一部の事業と人を引き継いでグラビス・アーキテクツを起業しました。32歳のときのことです。

大半の事業は閉じ、ほぼ全ての社員に辞めてもらいました。辞める社員の転職先を探す手伝いなどもしました。こうした撤退戦は大変苦しかったのと同時に私のキャリアにとって忘れられない重要な学びでした。

クライアントの成功とその向こうにある社会問題を解決する「目的」と「手段」を逆転させない仕事をしていく

大森

グラビス・アーキテクツの特徴を教えてください。

古見氏

1つ目の特徴として、我々の会社のミッション、そして事業ドメインについてお話しします。
我々はデジタルとコンサルティングの組み合わせによって、国、独立行政法人、地方公共団体など公共公益機関を支援するコンサルティングファームです。
公共公益機関が抱える大きな課題は、行政サービスの範囲が広がり続けていることです。

例えば、時に自然災害への対応を求められ、他方で医療や介護といった社会保障問題の解決も求められます。近年では、独居老人の問題に起因してシニア世代向けの婚活まで行政が担うケースが出てきています。
このような背景によって各機関の職員は過剰に忙しくなっています。人口減少によって生産年齢人口が減るほど、行政サービスの担い手の数は減り、公共公益機関の負荷がますます大きくなります。
すでに一部の業務は民間企業への委託(BPO)が進んでいますが、業務過多による公共公益機関の疲弊を抑えるためには、民間企業の参画による業務のさらなる効率化が不可欠です。
その道筋をつけることが私たちの役割の1つであり、それにより公共公益機関は社会問題の解決に焦点を当てた行政サービスを提供できるようになります。
我々はこれら組織に向けた支援を通じて多様な社会問題の解決に貢献することをミッションとし、公共公益の分野でNo.1ブランドになりたいと考えています。

2つ目の特徴は、規模を大きくすることをKPIにしない、という点です。我々は「いいやつ比率、できるやつ比率」を下げないことを強く意識しながら経営をしています。
今の世の中は供給過多で「役に立つ「手段」」の飽和状態です。その中で本当の「意味がある(=目的)」を見つけることで人生が豊かになる時代です。それと同じように「XX会社のXXコンサル」というラベルを張ってコモディティ化した特定分野しかこなせないコンサルタントを大量供給するよりも、クライアントや社会を主語にして真剣に問題解決に取り組み、あらゆる手段を講じることができ、そして何よりもそこに主体的に取り組むことのできる人、目的を持った意味がある仕事人生を歩みたい人だけを採用し育成していくことに注力しています。

例えば、私たちは行政に存在するデータを活用して、虐待を予防するための活動を進めています。ただ特定の「手段」を声高に話しているだけで、それ使ってどのような「目的」を達成すべきかを話せなければなりません。
私はコンサルティング会社を経営するにあたり、人数×単価×稼働というスプレッドシートで簡単に計算するだけのチープなものではなく、もっと価値あるものにしたいという思いが強いのです。そのためには目的と手段を逆転させず、社会問題を解決したいと願う目線の高い人と仕事をしたいと考えています。

大森

「手段」よりも「目的」にこだわりを持たれているのですね。どのような方が貴社に入社されていますか。

古見氏

グラビスで求める人材、入社して成功する人材は、アサインされた仕事をただ単にこなすタイプではなく、自分のやりたいことを自分で獲得して最後までやり切る人材です。

そして、グラビスに入社する方の前職は大きく3つのパターンがあります。
1つ目は、コンサルティング会社からの転職です。日々のプロジェクトにおいて、自身が何のためにコンサルティング会社に入ったのかに悩み、「レゾンデートル(存在価値)」を再定義した結果、グラビスに入りたい、という方です。

2つ目は、SIerなどのIT業界からの転職です。技術は好きだし、大切だけど、押し付けるのではなく役に立ってほしい、もっと言うと「何のために?」「何をするのか?」からクライアントと一緒に考えたい、という方です。

3つ目は、行政機関からの転職です。地域社会をよくしていくためには、行政の中で手順を踏んでいくよりも、外部のコンサルタントとして取り組む方が、社会問題の解決に早く結びつくかもしれない、と考える方が増えています。

大森

貴社の考えが、固定化された仕組みのレールに乗っているもののそこに疑問を持っている人に刺さるのかもしれないですね。

古見氏

はい。逆に、コンサル業界に入ることで箔をつけたい人やただキラキラしたキャリアがほしい人は、大手ファームに行ったほうがいい。グラビス・アーキテクツは、真剣に社会問題を解決し、社会をより良くするために仕事がしたいと考える人を求めています。
志が高くて優秀な人と働きたいですし、すでにコモディティ化してしまっている大手ファームの歯車という存在に疑問を持ち、真剣に世の中の役に立ちたい人、社会問題を解決したい人だけに来て頂ければと思います。

そもそも、良いキャリアとは有名な組織や大きな母集団に所属することではなく、自らで目指すべき方向を定め、世の中に少しでも爪痕を残そうと真剣に取り組んだ足跡であり、「生き様」そのものであるべきです。

職人を育てる「守破離」という考え方があります。私なりの解釈ですが、「守」(Must)は教わったことを忠実に再現できる状態、「破」(Can)は教わったことに自分のものにして「出来る」状態、そして「離」(Hope)はそれを世の中の「意味がある」こととしてHopeに昇華させオリジナリティを生み出せる状態。

今、コンサルティング業界は「破」の状態で止まったまま、キャリアを重ねていく人が多いように感じます。つまり、「出来る」を「(都合よく)意味がある」にすり替えてしまう、仕事の価値とは相手のあることであり、相手に「意味がある」と思ってもらって初めて「意味がある」のに、そこを考えずに「出来る」を「意味がある」と勘違いしてしまう。そういう人は、本来の仕事の目的を見失い、手段である職位と報酬を追いかけ業界を回遊魚のように渡り歩きます。

我々は、本当の「離」を目指して真摯に取り組み、時に未経験の分野にもチャレンジし、失敗しながら進める人が手にするものの大きさを知っています。そのチャレンジをしてもらいます。

大森

社員が「離」にチャレンジできるよう、実践していることはありますか?

古見氏

社員の実現したいことがあり、収益のあるビジネスケースとして成り立つならチャレンジを後押ししています。たとえば、大阪と福岡に事務所を出していますが、理由は地元で身を立てたいという社員がいたからです。ビジネスケースを成立させる責任を負うことができるのであれば、地方に限らず海外に住んでもいいと思っています。

自分たちだけでなく、より良い世の中を作るためのコンサルティング

大森

貴社が目指すコンサルティング会社としての姿を教えてください

古見氏

昭和でも平成でもなく、令和らしいコンサルティングをしていきたいと考えています。

長くコンサルティング業界に身を置いてきて、大きく2点の問題意識を持っています。
1点目は、規模の拡大こそが正義であるという点です。需要拡大期間の昭和は大量生産大量消費モデルで「役に立つ」プロダクトを供給することで規模拡大=成功というわかりやすいビジネスをすることができた。作れば作るほど売れる時代です。コンサルティング業界は未だに人がいればいるほど売上が上がるモデルを志向し続けています。そして、インダストリーとソリューションの掛け合わせの「点」に人を配置することで狭いスキルを身に着けさせる。一見ネームバリューのある企業にいるので人材価値が高いようだが、メッキを剥がすと潰しの利かない人材を育てています。

産業史で示唆があるのがガラケーです。どのメーカーも、デザイン、機能、色使いなど、示し合わせたかのように似ています。しかも春夏モデル、秋冬モデルと市場を刺激し続けないと売れないビジネスモデルでした。そこにAppleがiPhoneという全く違うデザインで違うビジネスモデルのプロダクトを投入し市場を席捲してしまった。今、コンサルティング業界はガラケーになってしまってはいないか、そんな危機感があります。

2点目は「Greed is good(欲望は善である)」の文化。日本は、平成から令和にかけて阪神淡路大震災や郵政民営化、東日本大震災、COVID-19など大きな出来事がありました。そして社会的影響の大きい出来事の都度、業界ではある意味での特需が発生します。個別の事例を詳細には話しませんが、そのような時期に本来のコンサルティングの倫理観を欠いた仕事している一部の業界関係者がいることです。

そして、大規模案件を常に作り続けながら規模を拡大することだけが目的化したビジネスモデル、規模の拡大というゲームはどこかで限界が来ます。

コンサルティング業界がコンサルティング以外にまで手を広げるのも常に規模の拡大が目的になっているからに他なりません。
繰り返しますが、目的は自社の拡大ではなくクライアントの成功であり、社会問題の解決であるべきです。
確かに、どんなに良いことを言っても事業とは利益を上げなければただの遊びです。ただ、主張したいのは、価値のある仕事で正しく利益を上げるべきだということです。

主語は自分ではない。自分(自社)はこれだけすごい、という話ばかりするのではなく、これから(令和時代)のコンサルティング業界に求められるのは、主語を社会にする姿勢だと考えます。
需要減少により大量生産大量消費が終わり、「手段」の大量供給よりも「目的」に沿ったより丁寧な仕事が求められている今、より社会問題解決を志向した新しい令和型のコンサルティングの形を作っていくことが重要だと考えています。

コンサルティング業界では大手ファームが規模を拡大し、コンサルタントという肩書の人が急増しています。しかし、本当のコンサルティングとは問題解決をする仕事であり、簡単な仕事ではありません。そんな真のコンサルタントがそれほどいるとは思えない。

だからこそ、我々だけは、そこに抗い、規模の拡大で悦に入るのは止めたい。そして、私たちはこれからの令和型のコンサルティングを志向したい。これまで培ってきた様々な手段(スキル)を基礎スキルとし、その上に社会をより良くするべく本当の問題解決を志向した目的ある仕事のために働くという目線の高い社員が集まった会社です。今、コンサルティング業界に就職を志望する人の多くはただキラキラしたキャリアを作りたいだけの人が多く、正直足手まといにしかならない
それが、社員を拙速に増さない理由でもあります。

大森

そうした貴社の学びを体現しているような社員の方はいますか?

古見氏

社員全員がそうです。
我々は原則として顧客と直接受注で仕事をします。
小規模な企業ながら、提案ではほぼ負けない。勝つ営業活動、勝つ提案書を作る力を持った社員が多い。そして、そのクライアントからリピートを頂き、さらにクライアントの中で我々のビジネスがグロースしていきます。マーケットシェアよりもクライアントシェアを意識しています。

それは、真の意味でクライアントファーストであること、具体的にはクライアントを取り巻く環境、社会がどうあるべきかを含めて高い目線でクライアントに接する癖が社員一人一人に身に付いているからです。

大森

御社の今後の展望を教えてください。

古見氏

当社の提供価格は大手ファームとあまり変わりません。冒頭に申し上げた弊社の特徴の1つ目にある問題意識に基づき、得た利益を自治体と共同で新たな行政サービスを立ち上げるなど、より事業会社的な活動に積極的に参画していきたいと考えています。 現在、その一環で、行政における請求書を電子化するソリューションを開発しているスタートアップへ出資し、ビジネス化を支援しています。こうした新しいスキームに積極的にチャレンジしたい。

大森

もはや、これまでのコンサルティング会社の仕事という固定概念ではなく、現代社会における様々な問題を解決する商社を目指していると言ってもいいかもしれませんね。
それでは最後に、2010年に創業して今に至り、そして未来を見据える中で、大切にしていることや考えはありますか?

古見氏

これまでお話したことを小さい会社で成し遂げていくことは難しい、でも小さい会社でないと進められないだろう、とも思います。
簡単ではないからこそやるべきだし、そのための苦しみも抱き合わせて前に進む必要があります。
坂口安吾の続堕落論に以下のような一説があり、私自身いつも自分に言い聞かせている言葉です。

「道義頽廃、混乱せよ。血を流し、毒にまみれよ。先ず地獄の門をくぐって天国へよじ登らなければならない。手と足の二十本の爪を血ににじませ、剥ぎ落して、じりじりと天国に近づく以外に道があろうか。」

左:グラビス・アーキテクツ古見氏 右:弊社大森

構成・編集:久保佳那
撮影:赤松洋太

※本記事の内容はすべて取材当時のものです。