PwCコンサルティング合同会社
PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のパートナーである田中氏は、新卒で家電メーカーに入社後、コンサルティング業界に転職し、SCMのコンサルタントとして活躍。その後、M&A企業に転職するなど多様なキャリアを積み、2019年にPwCコンサルティングに戻ってきた。 しかし、「実はBIG4に戻る気はなかった」と田中氏は語る。田中氏がPwCコンサルティングに戻る決断をした理由や自身のキャリア、SCM領域でのPwCの強み、若手のコンサルタントへのアドバイスなどを伺った。
INDEX
さまざまな企業や立場を経験しながら、一貫してSCMに関わり続けてきた
大森
これまでのキャリアやターニングポイントについて教えてください。
田中氏
キャリアのターニングポイントは少なくありません。 一度目は新卒で入社した家電メーカーから、キャリアチェンジをして、コンサルティング業界に足を踏み入れたことです。 私は新卒で家電メーカーに入社し、購買や生産管理、生産技術を経験しました。その後は情報システム部門に異動し、SAPやスケジューラ―の導入などを担当。その頃、情報システム部門が子会社化し、外資の資本が入ったことで出向扱いになり、メーカー本体に戻れなくなる事態が起きました。 以前からコンサルティング業界には興味があり、1社目で5年くらい経験を積んだ後に転職しようと考えていました。そこで、この思わぬ事態を好機と捉え、予定を早めて社会人4年目でPwCコンサルティングの前身となる会社に転職を決めたんです。 その後、7年ほど在籍した頃にキャリアを振り返る機会がありました。そのとき、社内での自分は「製造業のSCMの人」というイメージが完全に出来上がってしまっていると感じました。そこで、それを払拭しようという考えから、コンサルタントのサービス側の仕事をやめてセールス職になりました。 セールスとして売り上げのKPIは達成できましたが、セールスをしているとまたサービス提供がしたくなってきます。 そして、2008年のリーマンショックで自身のキャリアを見直しはじめていた頃、大手SIerから「コンサル部門をスクラップ&ビルドしたいので来てくれないか」と誘われます。 サービスも組織も人材も給与テーブルもないような状態。自分たちで床材をはがしてLANをひくところからのスタートでしたが、立ち上げを経験しチームとしても、それなりの業績を上げることができました。
そんな折に、自営業をしていた父が事業をやめることに。私は継ぐ気がなかったものの、事業はこのまま残したいという想いもあり、M&Aをすることに決めましたが、M&A先は自分で探したかったためM&Aの会社に転職をしました。
大森
コンサルティング業界からM&A業界への転身はめずらしいですね。これまでとは違うキャリアを選ばれたんですね。
田中氏
M&Aの業界は銀行や証券の出身が多かったので異色の存在でした。キャリアが変化しているように思われるかもしれませんが、自分の中では意外とそうでもないんです。 M&Aの会社での経験の1つに、調達部門と生産部門しかない製造業のクライアントに対して、物流部門を買収するサポートがありました。こういった経験を改めて振り返ると、SCMはやはり自分のキャリアの軸になっていると感じます。 それから数年が経ったころ、PwCコンサルティングが三本の矢として強化していくのが、人事、会計、SCMであるというのを耳にしました。自分のSCMの知見を活かせそうだと考えました。 しかし、BIG4に戻る気はまるでなかったんですよね。自分で会社を作って独立する準備もしていたことがあったくらいですので。 それに、自分がPwCコンサルティングのSCMを強化して、ファームの成長に貢献できるのかという点について、非常にやりがいはあるだろうが決して容易なことではないと思いました。 しかし、最終的には人とのつながりや、キャリアの変化を求めていたタイミングだったこともあり、PwCコンサルティングに戻る決断をしました。
PwCのSCMの強みは、全領域をOne Teamで提供できること
大森
古巣に戻ってきて、感じた変化はありますか?
田中氏
以前在籍していたころより、組織間の壁がなくなって風通しがよくなった気がします。そして、以前よりグローバル度も増しています。仕事上、英国や中国、タイなどのメンバーと話しますが、メンバーファームとして対等な関係が築けていると感じます。 個人的には、以前一緒に働いていた多くの人が「おかえり」と温かく迎えてくれたことがうれしかったですね。自分から挨拶まわりに行こうと思っていたら、すでにたくさん面談の予約が入っていました。
私が所属していた頃と社名が変わっているし、出戻りなのかな?という思いもあったのですが、おかえりと言ってもらえたので、今では「出戻り」と公言しています。
大森
田中さんの担当されるSCM領域において、他のBIG4との違いはどこにありますか?
田中氏
PwCでは、サプライチェーン全体に関わる業務を「オペレーションズ」として組織を一つにしています。SCM領域のコンサルティングをOne Teamとして提供する体制であることはPwCの強みと言えるでしょう。多くのコンサルティングファームでは、調達や物流に関する部門はあっても、生産や販売、需給はないことが多いです。
大森
他社では難しいことを、なぜPwCは実現できるのでしょうか?
田中氏
SCMの領域は広く、一人のコンサルタントがすべてを語ることが難しいです。そのため、SCMの全ての領域をカバーするという発想自体が出てこないのではないでしょうか。 オペレーションズに属している一人一人のコンサルタントには、「調達に強い」「生産技術に強い」というような独自の強みを持ってもらっています。強みの数が多ければ、それを使い分けて多領域で活躍することも可能でしょう。
大森
PwCの特徴や魅力といったら何でしょうか?
田中氏
PwCは、例えばSCMのようなお客さまの規模が大きい案件にもお応えできる体制があります。お客さまのニーズに応えたいという気持ちが叶う場所であると感じます。 また、世界155カ国にグローバルネットワークを持つため、欧州などのリージョンの違いに触れられることは非常に魅力だと思います。直にコミュニケーションを取って、カルチャーに触れられます。
大森
日本企業の海外進出などグローバルなSCMプロジェクトの場合、なかなか当事者になれないという話を聞くこともあります。
田中氏
PwCコンサルティングに戻ってから、グローバルプロジェクトを4つ経験しました。その結論としては日本と海外が連携を行うことがベストだと思っています。 例えば、日本企業の欧州拠点と仕事をするとします。日系企業ということで、本社の考え方や生い立ちを私たちは理解している。しかし、欧州拠点に対し、日本の本社のガバナンスが効いていない場合があり、そんな時、私たちはまずPwCコンサルティングの現地のメンバーファームに「欧州拠点はどういう状態なのか?」と聞くことができます。
そこでリアルな事情をヒアリングできれば、なぜ本社である日本の理想が欧州で伝わりにくいか理由も分かりますし、背景を理解できればスムーズにプロジェクトが進みます。 以前はこうした連携の実現はなかなか難しいところでしたが、今はメンバーファーム同士がお互いをリスペクトしながらSpeak Upするというスタンスになっているので、よい連携が実現できていると思います。
コンサルタントに求めるのは、常に前に出る姿勢
大森
どんな人物を求めていますか?
田中氏
この考えはずっと変わらないのですが、前に出る人です。私たちコンサルタントは自分自身が商品のようなもので、まずお客さまの目に飛び込むようでなければなりません。 リモートの時代になると、パソコンの小さな画面で登場するだけになってしまい、「そんな人いた?」とお客さまに言われてしまうようでは、本来のバリューは発揮できません。 前に出ていくのは学びの面でもそう。自分からどんどん積極的に学びに行く人であってほしいです。 そして、コンサルティング自体を好きなことも重要です。パッションのある若手の方にはぜひ来てほしいですね。 コンサルティング業界の経験者なら、即戦力としてはSCMの経験者や強い想いがある人。長期的にみるなら、自分の領域を常に広げようと動く人です。例えば、今は調達や生産領域を担当しているけど、人事や会計にも興味があるような人もいいですね。 PwCコンサルティングは、3,000人ほどの社員・職員がいるものの、まだまだ成長過程です。ベンチャーのような要素もあり、新たなソリューションを作るのにいくつもの壁にぶつかることだってある。 そのため、自分で一からそのサービスを考えて作り出すことに興味のある方が向いていると思います。
大森
社内では若手の教育にも力を入れていると聞きました。成長したい、出世したいと思っている若手に、どのようなアドバイスをしますか?
田中氏
アドバイスするとしたら、3つです。 まずは「SCMなら田中」というように、自分の強みを社内で差別化すること。社内営業や社内マーケティングが重要です。若手だと経験やスキルがないから差別化できないと思っている人がいますが、そんなことはない。 実際は知識が浅くても、自分で口にしていれば周囲からも認知されるようになり、その仕事がまわってきて、経験することで知見も深まります。 2つめは「お客さまの話を聞く」という言葉の意味を取り違えないことです。「お客さまの話を聞くことが大事」とよく言いますが、ただ話を聞くのではなく、その発言の中に潜むお客さまが解決したい課題は何のかというところを意識しなければなりません。 真の意味でお客さまの話を聞くためには、何度も話を聞いたり、さまざまな部署の人と会ったりする必要があるし、自分で妄想することも。自分の腹落ちが深くなれば、発言の一つ一つにも重みがでます。 3つめは、社内で自分より2つ上のタイトルの人を意識して動くこと。シニアアソシエイトならシニアマネージャー、マネージャーならディレクターを意識する。 なぜ、自分に今その指示が出ているかを考え、次にこんな指示が出るのではと予測して準備しておく。すると喜ばれますし、次のチャンスにつながりやすいです。 上だけでなく横も同じです。業務が近いチームだけではなく、一見すると関わりのないようなチームのメンバーと会話する。それによって視野も社内のネットワークも広がります。PwCコンサルティングはフラットな組織なので、そうしたコミュニケーションが非常に取りやすいです。
大森
上にも横にもつながりやすい組織だからこそ、成長意欲のある人には広がりのある環境ですね。
構成・編集:久保佳那 撮影:赤松洋太