マーサージャパン株式会社
人事領域に特化したコンサルティングを提供するマーサージャパン株式会社。同社には「人事領域で幅広い経験を積みたい」と考えて転職してくる方が多いという。 組織・人事変革コンサルティング 部門代表である山内(やまのうち)氏に自身のキャリア、マーサージャパンの特徴、求める人物像について話をうかがった。
INDEX
事業会社を経験したことで、改めて人事と組織の重要性に気づいた
大森
山内さんのこれまでのキャリアについて、教えてください。
山内氏
新卒では日系の大手銀行に入行しました。しかし、当時は不良債権処理に明け暮れた厳しい経営環境の時代。優秀な先輩たちがルールや制約に縛られて非生産的な仕事に追われる様子を目の当たりにします。 学生時代から海外に行く機会がよくあり、社会人になった後も引き続き関心をもっていたところ、グローバルに展開する日系企業を支援するチームがあったマーサーとの縁があり、転職しました。 5年ほどコンサルタントとして経験を積んだ後、「人事以外の領域にもチャレンジしたい」と考え、外資系戦略ファームへ。 そこで2、3年働いていたときに「事業会社のCFOにならないか」という誘いがありました。当時私は31歳。「若くしてCFOになる機会はなかなかない」と考え、転職を決意しました。 転職した事業会社はオーナー企業でしたが、ちょうど経営体制の代替わりのタイミングでした。持株会社の経営企画や海外事業のCFOなど、さまざまなポジションを経験しました。
事業会社で実際に5年ほど働いたことによって、改めて気づいたことがあります。それは「人事は企業にとって非常に重要であるにも関わらず、組織内部からの改革は、様々なしがらみに縛られることも少なくない」ということ。外部の立場だからこそできることもある、と改めて認識しました。 そこで、当時マーサーにいた先輩たちに相談して8年前に当社に戻りました。戻ってからはコンサルタントとして働きつつ、並行して研修関連の新規事業を立ち上げるなどの経験を経て、現在は人事コンサルティング部門の責任者をしています。
大森
山内さんのキャリアにおけるターニングポイントを教えてください。
山内氏
いくつかありますが、まず日系の金融機関からマーサーに転職したことです。ルールや制約が大きい環境から、結果や成果が評価され、自由闊達で活気あるコンサルティングファームに入り、その組織文化の違いに驚きました。今では当たり前のリモートワークやオフィスでのカジュアルな服装も、20年以上前からマーサーでは当然のように実践されていました。 そして、いかに付加価値の高いアウトプットをするかというプロフェッショナルとしての学びもありました。 もうひとつは、30代前半で事業会社のCFOになり、バックグラウンドの違う50名もの部下をもったタイミングです。組織長として正式な部下をもつのは初めてでした。入社した会社は年齢や社歴を問わない実力主義の会社で、部下には10~20歳以上も年上の部課長もおり、海外駐在時は部下のほぼ全員が外国籍のメンバーでした。比較的バックグラウンドが似た人材が集まる銀行やコンサルティングファームと比べてはるかにダイバーシティを感じられる環境で年齢・国籍が多様な人々と働いた経験は、今でも貴重な財産になっています。
人事や組織領域に特化した上で、事業ドメインを広げている
大森
御社は人事領域に強みをもち、グローバル色が強いイメージがあります。具体的な御社の特徴について教えてください。
山内氏
もっとも大きな特徴は、人事や組織領域において、総合的なサービスを世界中で提供していることです。 クライアント企業のパーパス・ビジョン策定から人事戦略・要員計画の策定、コーポレートガバナンス関連、人事制度設計や人事部門改革の支援などを極めて多数手がけています。 そして、人事制度の設計や運用などのエグゼキューションを行う場合は、実務をまわしていくうえで、より具体的なツールやデータが必要です。こうしたデータもグローバルで蓄積し、世界中の企業の人事部門にとっての重要な業務インフラとなっています。
私がマーサーに戻った8年ほど前は、人事制度やタレントマネジメント関連の引き合いが多かったですが、クライアントのニーズも幅が広がり、役員報酬、コーポレートガバナンス、組織開発・人材開発、デジタル領域など、現在の事業領域は多様化しています。 昨年から開始しているeラーニングもその一つです。それまで顧客からリクエストされて提案をしてデリバリーするコンサルティングがメインだったのですが、より多くのクライアントと接点を持つため、違ったアプローチをしたいと考えました。例えばビジネスMBAなどの講座をオンラインで提供している会社がありますが、我々が提供するコンテンツはその人事版のイメージです。
大森
幅広い企業との接点を増やしているのですね。
山内氏
報酬データのサービスである「総報酬サーベイ」は、当社の人事データサービス部門の主力商材の一つで、世界140カ国で実施されグローバルで大きなシェアがあります。コンサルティングファームでありながら、異なるエコノミクスであるデータサービス部門も有していることが、幅広い顧客基盤につながり、当社の大きな強みになっています。
最近の傾向として、クライアントとのお付き合いが、より長期化しています。以前は大型プロジェクトでも1〜2年でいったん完了するケースが多かったのですが、3〜5年ほどのプロジェクトが増えています。私自身、7年以上継続して担当しているクライアントもあります。 その理由は、クライアントの人事課題が単純なものではなく、多種多様になっているからです。また、長いお付き合いの結果、クライアント企業の人事施策や過去の経緯などを、マーサーのコンサルタントの方が詳しく知っているというケースも少なくありません。 当社では1社を常に同じコンサルタントが担当するわけではなく、役員報酬、人事戦略などの領域に応じて、様々な専門性を持ったコンサルタントが連携し、クライアントに価値を提供しています。社内連携の風土は日本だけでなく世界中で定着しており、例えば現地の人事慣行などに関して面識のない海外のコンサルタントに連絡をとっても、こころよく色々な質問・リクエストに答えてくれるカルチャーがあります。
どこでも活躍できる人材が、志のある仲間と働くことを心地いいと感じている
大森
御社で働く魅力について教えてください。
山内氏
メンバーのキャリアアップや成長を真剣に考えていて、さまざまな成長の機会があることです。一例として、現在は5名ほどの若手・中堅メンバーなどが官公庁、メガベンチャーや外資系企業などに出向しています。こういった取り組みは、コンサルティング以外の様々な業務経験の機会を作ることが目的です。 幸いなことに近年人事コンサルティング業界の人気は高く、当社が採用する若手はポテンシャルが高いため、どの業界・企業でも求められるような人材が多いです。 だからこそ、さまざまな経験をする機会を作らなくてはと考えました。現在の立場上はあまり大きな声では言えませんが(笑)、私自身、「別の仕事もやってみたい」とマーサーを辞めたことがあります。人材が育つための機会を提供できるファームであれば、仮に辞めたとしても戻ってくるかもしれない。人材不足の中で一時的とはいえ貴重な戦力を社外に出すことは無謀ともいえる取り組みなので、当初は一部反対の声もありましたが、現在では社内でその重要性は理解されています。
大森
とてもいい取り組みですね。 出向で実務経験をして戻ってきたときに、得た知識を周囲にも共有するなど、いい影響がありそうです。
山内氏
コンサルティングファームで起こりがちな、仕事やクライアントを囲い込む縄張り争いがないことも当社のメリットです。その理由としては、データを活用した領域で2000社ほどとお付き合いがある当社は、大変ありがたいことに、引き合いをいただく機会が極めて多いからです。だからこそ、社内でコラボレーションして動いていこうという意識が強いですね。コラボレーションに対するスタンスは、昇格・登用の判断時などにも重要な要素の一つとして位置付けられています。 また、フルタイムの社員以外にも、当社のアルムナイ(卒業生)で独立したコンサルタントがプロジェクトに加わることなどもあります。情報管理には十二分に気をつけながら、多様な人材を組織力につなげていっています。
大森
中途で入社した方は、どのような理由で御社を選んでいるのでしょうか?
山内氏
カルチャーと経験の幅、といえるでしょうか。全般的に社内が協力的で、過度に競争的ではないカルチャーに魅力を感じていただくことは多いです。また、特に競合他社から転職してくる若手の場合、「人事領域の中で、より幅の広い分野の仕事を経験したい」という理由が多いです。その理由は、大手の総合ファームは会社として手がける領域は幅広いものの、個人の仕事は細分化されていることが多いからです。 その点、当社では全体の3分の2はジェネラルユニットに所属し、人事領域のジェネラリストとして育成しています。専門チームに入ったとしても、対象領域の業務を中心としつつ、それ以外にも、本人の希望も確認しながら、さまざまなアサインメントを経験できます。 たしかに、短期的に生産性を追求するなら、細分化して経験を積んでもらったほうが効率的であり、プロジェクトマネージャーくらいまでなら成長も早いでしょう。しかし、細分化した経験だけでは、成長が頭打ちとなるリスクがあります。当社では、多少時間がかかっても、人事や組織の領域の中で、なるべく多様な経験を積んでほしいと考えています。そのほうが中長期的に見て、コンサルタント本人にとっても、より市場価値が高く、意義のあるキャリアにつながります。その一方、特定の専門領域を深く極めていきたいという方には、それを追求可能なキャリアパスもあります。一定の規模があるゆえに、キャリアの選択肢が豊富にあることは魅力の一つだと思います。
大森
アサインメントの希望は、上司とコミュニケーションを取りながら、フレキシブルに行えるのでしょうか?
山内氏
各チームにいるアサインメント担当マネジャーが本人の希望や成長課題を1on1で確認しながらアサインメントを実施しており、一定の規模のファームとしては、かなり丁寧なコミュニケーションを行っています。プロジェクトメンバーの社内公募も頻繁に行っています。 また、海外オフィスとのモビリティ(海外出向・転籍)の仕組みがあり、空きポジションに応募して受け入れ側との調整ができれば、海外で働くことも可能です。最近でも、この仕組みを活用して実際に北欧オフィスへ短期間勤務したのち、正式にトランスファーを実現した社員もいます。
大森
英語力やコンサルティング経験は必須でしょうか?
山内氏
英語力は必須とはしておりません。もちろん、英語が流ちょうな場合、より多くのアサインメント機会がありますが、基本的には日系企業で日本語がメインのプロジェクトが中心です。また、マネージャークラスくらいまでは、特定の領域での強みや入社後の成長ポテンシャルがあれば、コンサルティング経験や人事経験は必須とはしていません。
大森
求める人材について教えてください。
山内氏
提供するサービス範囲が広がっているので、求める人材も多様化しています。例えば、HRxデジタル領域のサービスオファリングを強化するため、ITバックグラウンドの人材なども、広く募集もしています。 また、パーパスを策定するためのワークショップを行ったり、意識調査を行った後にカルチャー変革のデザインを行なったりなど、従来の人事制度設計などのいわゆるハード系の課題やご依頼だけでなく、よりソフト系のものが増えています。組織開発に関するニーズが高まっているため、関連した経験をお持ちの方も歓迎しています。 外部環境変化が激しく、人材流動性も高まりつつある今日、人材マネジメントの巧拙は、個別企業の死命を制する極めて重要な取り組みです。加えて、組織で働くことを、より生産性高く、実り豊かなものにできるかどうかは、個々人の幸福度の向上や少子化問題の解決など、我が国が抱える社会課題とも密接に関連しています。 官公庁に対して積極的に人材を出向させていることにも表れているとおり、当社には個別企業の経営支援にとどまらず、こうした社会課題について真剣に考えて取り組んでいきたいという関心が高いメンバーが多数揃っています。どのファームでも通用する優秀な人材が多数ですが、志を共有し、お互いに刺激しあう仲間と一緒に働くことを心地いいと感じてくれているようです。私だけに限らず、出戻りの社員は少なくありませんが、他社を経験して、改めて当社の良さに気づいて戻ってきて頂いています。
大森
人事領域で幅広い経験を積みたいと考える、志のある方に合う環境なのですね。
構成・編集:久保佳那 撮影:赤松洋太