About Consultant

A.T. カーニー株式会社

A.T. カーニー株式会社のシニアパートナーである針ヶ谷氏は、自社のメディアプラクティスでの仕事について、「感性もロジックも理解する必要があり、コンサルタントにとってチャレンジングだ」と語る。また、マネージャーの末次氏は「熱量の高いコンサルタントが多い」と続ける。両氏のキャリア、日本のコンテンツメディアの課題、A.T. カーニーの特徴について話をうかがった。

メディアコンテンツの海外展開への期待値が高まる一方、ビジネスとして成立していない

大森

これまでのご経歴と、キャリアのターニングポイントを教えてください。

針ヶ谷氏

通信会社でインターネット関連事業の立ち上げや企画を経験後、2005年にコンサルティング業界に入りました。現在は、メディアプラクティスと通信プラクティスを担当しています。

私はA.T. カーニーのコンサルタントとして、多くの日本のメディアコンテンツの海外進出や、海外のビジネス立ち上げに携わってきました。

そのきっかけは、2010年前後に「クールジャパン戦略」という政府の政策支援をしたことです。
そこで私が目にしたのは、日本のメディアコンテンツの海外への期待値が高まる一方で、ビジネスとしてうまく成立していないという現状でした。

具体的には、メディアコンテンツ業界のバリューチェーンは典型的にスマイルカーブとなっており、権利をもつIPホルダーと、最終的にマネタイズする流通が利益を得ている一方、その中間は利益を得にくい構図になっています。例えば、映像作品であれば制作会社などがその典型です。

日本のコンテンツは世界中で消費されていますが、バリューチェーンの最後の流通にあたる映像や関連グッズの流通はすべて海外のプレイヤーが抑えていて、ほとんど日本企業は関与できていません。私たちが想像する以上に日本のIPは世界的に消費されていますが、海外のプレイヤーに権利を売る形でしかマネタイズができていないのです。海外における日本のコンテンツに関わる利益の大部分は海外企業が得ています。

一部の、世界中から買いたいと思われるようなコンテンツは多少価格を上げられるものの、大半の日本のコンテンツ業界は成長する海外市場から収益を得にくい構造になっていました。

この構造をなんとかしたいと考えたことが、私がメディアプラクティスをリードする動機になっています。

末次氏

私は新卒で大手出版社に入社しました。その理由は、学生時代に米国にいたとき、日本のコンテンツが海外で非常に人気なのにも関わらず、クリエイターやコンテンツホルダーに収益が渡らない実情を知り、中から変えたいと思ったからです。
海外で人気があるにも関わらず、当時の日本のコンテンツホルダー(出版社など)の不況や、テレビの視聴者離れが問題になっているような状況でした。

しかし、実際に働くなかで、コンテンツホルダーだけで構造を変えることはなかなか難しいと感じるようになりました。これまでは「作品がよければ売れる」という考えをベースに、「いいものを作り、いかに届けるか」を考えることが中心でした。しかしながら、デジタル化をはじめコンテンツの楽しみ方が変わっていくなかで、コンテンツホルダーはなかなか変化のスピードに乗り切れない印象がありました。

もちろん、電子書籍シフトやライセンスビジネスの拡張といった“改善”には取り組んでいましたが、既存ビジネスから非連続にビジネスを拡大しクリエイターが益を得るためには、コンテンツのバリューチェーン全体を見通す必要があると考えました。それに見合った実力をつけ、バリューチェーンを通して関与できることを期待して、A.T. カーニーに転職しました。

入社後は、ジュニアコンサルタントとしてさまざまな業界のプロジェクトを経験し、マネージャーになったタイミングで、メディアプラクティスの一員として世界的なコンテンツをもつお客様のプロジェクトに携わることになりました。

コンテンツの海外流通に関する知見と経験をもつコンサルタントは希少

大森

お二人が担当されるメディアプラクティスの特徴を教えてください。

針ヶ谷氏

コンサルタントの数が桁違いに多い総合ファームにはメディア領域を担当するチームはありますが、我々のような数百名規模のファームでメディアチームをもっているところはかなり珍しいです。

また、コンサルタントにとっては、メディアコンテンツのように自身の嗜好と合致しやすい業界のコンサルティングをする機会はなかなかないと思います。

そして、コンサルタントが通常携わる業界はロジックで解明できることが多いですが、メディアコンテンツはなかば感性的にできています。感性もロジックも理解する必要があるという点で、コンサルタントにとってもチャレンジングな仕事です。

末次氏

日本コンテンツは世界でも戦える強力な産業のひとつで、幅広く人気があります。結果なのかはわかりませんが、チームには日本人以外にも日本コンテンツ好きの中国や韓国出身のコンサルタントも在籍しています。

また、嗜好との合致度と関連しますが、熱量が高く、「どんどん仕事を作っていきたい」「この領域でまだやれることはあるはずだ」という考えをもっているコンサルタントが多い印象です。事業領域によっては、ジュニアがシニアの知見にかなわないと感じる場面は多いですが、メディアプラクティスでは「好き」が原動力となり、アクティブに知見を広げようと動いているコンサルタントが多いです。

大森

具体的なプロジェクト事例について、教えてください。

末次氏

日本を代表するコンテンツホルダーのお客様の戦略から携わったプロジェクトでのことです。依頼をいただいた経緯は、デジタルへの移行やコンテンツの楽しみ方が変わったことで、事業環境が悪化していた状況で、経営の体制が変わったことでした。

我々は、今何が起きているのかの理解を深め、事業環境の変化に対して何をやっていくべきなのか、という中期経営計画を一緒に立てました。そして、グローバル展開や構造改革、組織風土の変革を戦略だけでなく、実装まで継続的に支援しました。

他にも、IP・コンテンツをどのように作り、育成するかという、コンテンツホルダーのコアとなる部分もご支援する機会もあり、感性的なクリエイティブとビジネスのマッチングを具体的に議論・検討しました。

今後は、少し先を見据えてメタバース、NFTなどのWeb3.0領域も含めて、支援をしていきたいと思っています。

針ヶ谷氏

現状、コンテンツの海外流通ができる基盤をもつ企業は大手のゲーム会社を除くとほとんどありません。ほかの企業が同じような基盤をつくるためには、海外企業との提携もしくは買収という選択肢があります。しかし、提携は流通を握られる状況になるため、我々が支援するのは、海外のコンテンツ流通をしている企業への出資や買収、買収後に会社をよりよくしていく、追加で売買するなどの支援が多いです。

このように、コンテンツの海外流通に関する知見と経験をもっているコンサルタント自体はコンサルティング業界にほとんど存在しませんが、A.T. カーニーでは内部にスペシャリストを抱えて知見を深めています。

そして、蓄積した知見をもとに、海外に流通させたいコンテンツの消費マーケットの現状を踏まえた上で、その企業のポジション、どうしたらバリューアップできるかの支援をしています。

大森

コンサルティングを行う上で苦労されている点や、御社の強みが生かされている点はありますか?

末次氏

日本のコンテンツホルダーは、これまでプロダクト作りがコアバリューで「ヒット作をつくる=経営」という思想が長く続いていたこともあり、他の産業に比較してやや硬直性ある印象です。

当然のことですが、会社を大きく変化させるためには、社員の皆さんの理解が重要です。そこで、コンサルタントではなくクライアント中心のチームを組成して、チームメンバーに腹落ち・自分事化してもらった上で、全社に浸透させていく動きを取ることもあります。

針ヶ谷氏

今、韓国のコンテンツは世界中で人気がありますよね。私がメディア領域に携わり始めた2010年当時、韓国のエンタメのマーケットサイズは日本の10分の1ほどでした。

そのため、韓国の人たちは世界に出ていこうというモチベーションが非常に強かったです。現在世界的な人気の韓国ミュージシャンの楽曲の歌詞は、すべて英語で書かれていて最初から海外に向けて作られています。

一方、日本には海外に出ていくモチベーションは元々少なかったため、海外に向けて作っている作品が非常に少ない。それでも海外で受け入れられているのは、コンテンツ自体に力があるだけなのです。

しかし、日本のアニメの売上の6〜7割は海外という今、日本のコンテンツは海外を意識して作っていく必要があります。

少し前に全世界でヒットしたアニメは大正時代を時代背景にしていますが、あのコンテキストは日本人じゃないとわからない。しかし、世界で受けている理由は、世界があのアニメの世界観に寄ってきてくれているからなのです。
だからこそ、日本でコンテンツを作るときに世界に寄せていければ、さらにヒットするコンテンツが増えていくと思います。

末次氏

日本ではコンテンツに対する許容度が高く、キャラクターがタバコを吸っていたり、時には残虐なシーンがあったりします。しかし、世界標準では非常に稀で、タバコを吸うキャラクターが北米版では飴をなめていたりします。
一方、韓国のコンテンツ作りにおいては、そういったものは最初から排除されている。その点は大きく違いますね。

大森

2030年、メディア業界の経営環境は大きく変化するとお聞きしました。どのような変化が予測されていますか。

末次氏

現在、多くの人が利用しているGAFAをはじめとするプラットフォーマーは世界中のさまざまなデータを収集・蓄積しています。しかし、今後は個人に情報が分散していくと言われています。

そういった世界では、事業者がマスやターゲットセグメントにアプローチしてファンを作るのではなく、(IPに限らず)ファン自身が好きなコンテンツやブランドのコミュニティを大きくしていくようになっていきます。すると必然的に、様々な商材のマーケティングやブランドコミュニケーションのあり方も変わっていくと考えています

メディア業界に目を移すと、人気の高いIPやコンテンツは「ファンがつなぐ共通言語」の側面があると捉えていますが、日本には共通言語となりうるIPやコンテンツが大量に存在しています。これらをうまく活用して、分散した個人をつなぐ媒体の役割を果たすことができれば、Web3.0の世界で日本が勝つこともできるのではないか。その支援をしていきたいと考えています。

針ヶ谷氏

Web3.0はファンエコノミーの時代と言われています。日本のIPには非常にコアなファンがいます。全体の7割が好きというわけではなく、0.数%のスーパーコアがいる状態です。
例えば、アニメが好きだからという理由で、日本に来る留学生などはスーパーコアですよね。

これだけ強いファンエンゲージメントがあれば、大きなエコノミクスを生み出すことができるはずで、Web3.0において、日本のIPは本来非常にいいポジションを取れるはずなのです。

また、違う視点の話になりますが、韓国で生まれた、スマホを縦にスクロールして読む「ウェブトゥーン」と言われるスタイルのマンガがあります。現在、グローバルでさまざまな作家がウェブトゥーン上でコンテンツを発表しています。ウェブトゥーンのコンテキストは、韓国ではなく各国のコンテキストを踏まえて作られています。

韓国の有力なWeb企業は、作家を育てて収益を上げるプラットフォームそのものを海外に展開しています。

日本もこれまでのように、作家やアニメーターさんが汗水流して作った一品物の作品を売るのではなく、世界の人たちが近づいてきて一緒に作って楽しめるものを生み出していく必要があります。

しかし、現状の延長戦ででは放っておくとそうならない可能性が高い。スマートフォンの競争に日本が敗れたときの二の舞です。だからこそ、海外のマーケットを実際に立ち上げたり、現地でIPを生み出せる仕掛けを支援したりしたいと考えています。

最終的なアサインは、中長期と短期の希望を踏まえて決定する

大森

メディアプラクティスの仕事に興味をもつ人が多いのではないかと思います。御社が求めるスキルや人物像についてもお聞かせください。

末次氏

コンテンツに関わる業界の知見がある方を求めています。特殊な商習慣をもつ業界ではあるので、そこでの論理を理解できる方は活躍しやすいでしょう。

ただ、私個人がもっとも重視しているのは、日本のコンテンツが好きで興味をもって仕事ができることです。クライアントの皆さんがコンテンツに対する愛にあふれた方々が多いので、コンテンツへの“愛”は信頼感にもつながります。

針ヶ谷氏

メディアプラクティスは、海外のマーケットを目指しているチームなので、中国や韓国出身のメンバーも在籍しているなど、意識的にグローバライズしています。

末次氏

中国籍のメンバーは、日本のアニメに夢中になり、翻訳する過程で日本語をマスターしているなど、日本のコンテンツを愛しているメンバーが多いです。

大森

メディアプラクティスは、どのくらいの規模の組織なのでしょうか?

針ヶ谷氏

実は、A.T. カーニーには組織がなく、マネージャー以上のシニアが一つ以上のプラクティスに所属する形をとっています。

私の知る限り、A.T. カーニーは非常に公平でフレキシブルなアサインメントをしています。ジュニアコンサルタントは、中長期ではこのインダストリーチームで仕事をしたいという希望を出します。そして、毎週新規のプロジェクトの情報が共有され、入りたいかそうでないかの意思表示をしているんです。最終的なアサインは中長期と短期の希望を踏まえて決定します。

メディアプラクティスは私と末次、パートナー1名、そのほかにマネージャー、アソシエイトたちがいます。しかし、所属メンバーはメディアの案件だけを担当しているわけではなく、逆に彼らしかメディアの仕事ができないわけでもありません。

末次氏

A.T. カーニーはジュニアに積極的に仕事を振る傾向があり、成長に対するコミットメントが高いことも特徴です。一番下のメンバーが社長にプレゼンを行うような機会が珍しくありません。
こうした育成の姿勢が、ジュニアコンサルタントの強さを作っていると感じます。

大森

オペレーションまで提供するコンサルファームが増えている中で、戦略領域にフォーカスする難しさは感じていますか?

針ヶ谷氏

戦略のみではなく、オペレーションも行う丸抱えの場合、お客様はすべてを1社に任せられるメリットがあります。しかし、結果的にフィーは上がってしまいます。

その点、我々の基本ポリシーは、丸抱えではなくベストオブブリードです。最適な人材を最適なフィーで連れて来る形を取り、協働の支援をします。現在もいくつかのパートナーさんと一緒に提案したり、取り組みを進めているところです。

そのため、競合や委託先になるような総合系ファームへの差配をすることもあります。最近では「丸抱えでお願いしていたけれども、その見直しに入ってほしい」というご依頼をいただくことが多いですね。

また、良し悪しを語るつもりはないのですが、組織が急拡大して仕事を丸抱えで受けようとすると、優れた人材のリソースを提案の瞬間にしか活用できなくなってしまいます。
すると、実行面になればなるほど、コンサルタントの質を下げざるを得なくなってしまう。私たちは、クライアントファーストの観点から、そういった選択はしません。

実行面で我々よりも安く最適にできるところがあれば組みますし、お客さんが直に巻き取れるようになって上手くまわり始めたら、我々の役目は終わりなので、次の課題に行きます。

大森

今回、御社がコンサルタントを200名から300名規模にすることはマーケットでも非常に注目されています。どういった背景があるのでしょうか?

針ヶ谷氏

以前は、頑なにコンサルタントをジェネラリストとして育成してきました。消費財、産業財、通信すべてに対応できるコンサルタントです。

しかし、人数規模が大きくなっていくとなかなか難しく、コンサルタントそれぞれの熱意や向き不向きをつかめてきたため、本人に適性のある領域を経験したほうがいいと考えるようになりました。
また、中途で得意領域を持つ人も入ってきていて、ある程度の質の担保ができていることも背景にあります。

最後に強調しておきたいのは、「今と仕事内容を変えずに、肩書きと給料だけを上げたい」という方に当社はおすすめしません。
逆に、「今のスキルを大きく変えてコンサルタントに転身したい」と考えている人には非常にいい会社だと思います。

大森

御社のような戦略ファームについては、まだ理解されていない部分が多いように感じます。多様な人材が活躍されている御社の魅力を微力ながらマーケットに伝えていきたいと思います。

左:A.T. カーニー末次氏、針ヶ谷氏 右:弊社大森

構成・編集:久保佳那
撮影:赤松洋太

※本記事の内容はすべて取材当時のものです。