PwCコンサルティング合同会社
「先行きの見えない未来をどう予測し、どんな打ち手をとるべきか」という悩みを抱える日本の経営者は多い。そんな中で立ち上がったのが、未来創造型コンサルティングを提供するPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)の『Future Design Lab』だ。 同組織を立ち上げた三山氏は、「未知のものを考えるならば、ビジネスの方法論だけではたどり着けない領域まで到達しなければならない」と語る。 そして、フューチャーストラテジストである土井氏は「グローバルで求められるケイパビリティを身に付けられる環境」だと語った。 お二人のキャリアや未来創造型コンサルティングに関して求める人物像などをうかがった。
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「10年後に生まれる技術を知り、変化への準備をしたい」というリクエストがはじまりだった
大森
お二人のこれまでのご経歴や、キャリアのターニングポイントについて教えてください。
三山氏
IT系のスタートアップ企業のエンジニアからキャリアをスタートし、その後複数のコンサルティングファームを経て、2015年にPwCコンサルティングへ入社しました。 コンサルティングファームではまずITコンサルティングに従事し、業務コンサルを経験したのち、現在の事業開発戦略立案のコンサルティングに携わっています。 キャリアのターニングポイントは、現在所属している『Future Design Lab』の基点になった2017年頃のプロジェクトです。 クライアントのCTOから「10年後にどういった新しい技術が生まれ、自分たちの業界を再定義していくのか。その変化に対して何を準備すべきかを考えたい」というご用命がありました。「Think unthinkable」。つまり考えないものを考えたい、見えないものを見えるようにしたいというレベルの提案依頼書(RFP:Request for Proposal)を求められたんです。 当時、私たちはその要望に答える術をもっていなかったのですが、コンサルタントとして試行錯誤し、新たなコンサルティング手法を開発しました。それが、現在Future Design Labで提供している『未来創造型コンサルティング』の原型です。 「こうしたニーズはそう何度もないだろう」と思っていたのですが、同じ企業の別部門や、他の企業様からも同様のニーズがありました。そんな調子で3年ぐらい続き、2020年の1月に『Future Design Lab』をバーチャル組織として立ち上げることになったんです。
土井氏
私は、2015年に新卒でPwCコンサルティングに入社し、営業改革やマーケティングなどを専門とするチームを経験した後、途中から新規事業開発へとシフトしていき、2018年に三山とプロジェクトを進めていくことになりました。そこから未来創造系のプロジェクトを経験していくことになりました。 ターニングポイントは、三山と同じプロジェクトを初めて経験したときに、「おまえのリサーチは凡庸の壁を越えていない。こんなのは未来じゃない」と言われたことです(笑)。 そこから、自分なりに未来を考えたり、さまざまなリサーチの手法を勉強したりして、今に至ります。 リサーチの手法の勉強の仕方としては2つあります。1つは、人が接していないメディアに触れること。さまざまなグローバルの人のニュースレターに登録し、海外メディアの記事を毎日読む、ソーシャルメディアで発信されている内容を自分なりの視点でちゃんと見ることを心掛けています。 2つめは、人と同じニュースや情報を見た場合により多角的な視点をもつこと、1つの情報だけではなく複数の情報とつなげて考えるようにしています。
大森
これまで経験してきたプロジェクトと、何が違いますか?
土井氏
これまでは自分たちの中にある確実な正解をクライアントの環境に合わせてデリバリーし、人間関係を円滑に進めることに注力していました。 しかし、未来創造系のプロジェクトは答えがなく、自分の頭でも考え、クライアントとのディスカッションで気づくことも多いです。一筋縄ではいかないものを落とし込んでいく仕事だと感じています。
日本の明るい未来を描きがたい経営者は、想像以上に多い
大森
未来創造型コンサルティングは、非常に印象的ですよね。 「未来を見据えて今何をするか」を考えるのは、戦略ファームなどが企業の成長戦略のコンサルティングをするときにも考えることではあります。そういった戦略系のコンサルティングと未来創造コンサルティングは、どのような違いがあるのでしょうか?
三山氏
戦略ファームとの最大の違いは、コンサルティング組織の中で協働し、同じプロジェクトでインタラクションしながらアウトプットを出す点です。 当組織は、戦略ビジネスとデザインを行うフューチャーストラテジスト、クリエイティブを担うフューチャーデザイナー、技術を担当するフューチャーテクノロジスト の3つの職域に分かれています。 私たちは一つのプロジェクトの中で、関係者が自らのボーダーを少しずつ超えて一体となり、セッションからインサイトを読み取っていくんです。 例えば、SFシナリオのようなものを書くテンプレートがあります。デザイナーが主導で書き、そこからビジネスのインサイトをフューチャーストラテジストが読み解き、さらにテクノロジーのエッセンスはフューチャーテクノロジスト が読みとく。その化学反応を大事にしています。 というのも、人口が減少しGDPが減少傾向にある日本において、「既存の論理を積み上げた先には明るい未来を描きがたい」と考えている経営者は非常に多いからです。 だからこそ必要とされているのは、積み上げの限界を超えてクリエイティビティやデザイン、エンジニアリングをすべて組み合わせて、今とは違う非連続に進化した望ましい未来を描くこと。 「論理的に完全につながっていなくても目指したい」と思える未来を描き、そこに向けた道筋をクライアントと一緒に描き出す私たちのスタンスに、みなさんバリューを感じてくださっているのだろうと思います。
大森
ストラテジーとデザインとテクノロジーが、ワンチームでシームレスに連携しながらプロジェクトを進めていく点が違いなのですね。
三山氏
連携していることに加えて、お互いのボーダーを微妙に超えながら動く点が大きな違いです。採用したい人物像にもつながる話ですが、ストラテジスト、デザイナー、テクノロジスト のいずれかに強みを持ちながら、自分の専門範囲のボーダーを超え、のりしろを埋め、化学反応を自ら積極的に起こしていただくマインドを持った方を必要としています。 なぜなら、そういう方がいてこそ、私たちが思考する未来創造型コンサルティングの真のバリューが発揮されると考えているからです。
大森
デザインは特殊な領域ですよね。クリエイティブとビジネスの視点は違うので、なかには相反する部分もあるのではと思います。そのあたりはどう連携を取られていますか?
三山氏
未来創造型プロジェクトの標準的な進め方は、3ステップ・9サブステップに定義され、誰が推進するタスクなのかも分類されています。フューチャーストラテジストは最初から最後までプロジェクトのデリバリーをしていきますが、フューチャーデザイナーは強みを生かした形でプロジェクトに関わっていただく形を想定しています。 具体的には、デザインリサーチといわれるビジネスの角度とは違うリサーチを出してとりまとめるなどです。 また、クライアントとインタラクティブに未来をつくっていく未来創造のためのセッションという手法があります。そのデザインはフューチャーデザイナーもしくはデザインの素養が高いフューチャーストラテジストにデザインしていただくこともあるんです。 それぞれの長所を生かしてプロジェクトでバリューを発揮し、各々が少しずつボーダーを超えて、できることを増やしていく組織を志向しています。
大森
新しい技術やテクノロジーに、クライアントが興味を持ち、一緒にやってくれないかという場合はどのようにされているのですか。
三山氏
Future Design Labではゼロ・イチの未来創造と、1から10にする未来実装の両方が大事だと考えています。 現在はゼロ・イチの未来創造を当チームが担当し、その後を他のチームが引き継ぐとしていますが、今後コアな体制が整いしだい、当チームで未来実装まで行えたらと考えています。
自分の能力を最大限にレバレッジしボーダーを超えれば、さらに大きなインパクトを出せる
大森
求める人物像について、教えていただけますか。
土井氏
私と同じくスタッフレベルの人でいえば、新しいチャレンジがしたいと思っていて、好奇心がすごく強い人が向いていると思います。逆に、曖昧なものが苦手だったり、わからないものにあまり手をつけたくなかったりする人には苦手な仕事かもしれません。 例えば、デザイナーだけに閉じたくない、ビジネスだけに閉じたくないと悩んで、個人的に芸術系大学のビジネスコースに通っている人がいる場合、それを実際に現場で学べる場所がここにあることを知っていただきたいです。 『Future Design LAB』はほとんど表に出ていない組織ですが、プロジェクトは非常に増えています。自分の枠を飛び出したい人にはすごく向いていると思います。 デザイナーの場合は、ビジネスの仕組みもデザインの一部だというふうに考えられる人が最も合っていると思います。
三山氏
テクノロジスト の方も同様です。テクノロジーは大事ですが、「世の中で求められるビジネスや価値の在り方が変わっているから、このテクノロジーをこう活かしたらいいんじゃないか」と思いを巡らせることのできる方を求めています。 「自分の領域を超えたところと交わらなくては、より深いインパクトとか価値は出せない」と気付いていながらも、セクショナリズムなどでボーダーを超えられなかったり、業務が切り分けられていることに悶々としていたりする方にもぜひ応募いただきたいです。 それぞれの領域で出せるインパクトは限りがあります。しかし、自分の能力を最大限にレバレッジして、他の人とボーダーを超えれば、もっと大きなインパクトを出せる環境です。
土井氏
真面目な人ほどロジカルに考えると思うのですが、遊び心があって、真面目にふざけられるような人が向いています。 「ワーク・ライフ・インテグレーション」が大事だと思っています。ハイブリッドワークで仕事と私生活の境目がなくなっていますよね。私生活で楽しいと思ったこと、ビビッときたことを仕事にも活かしていけるような発想が大事です。 仕事とプライベートを混同してほしいというわけではなく、自分が楽しいと思ったことが仕事にもつながり、仕事で得た刺激が実はプライベートの充実にもつながる。そんな風に軽やかに楽しめる人がいいなと思います。
また、若手なら、上に忖度せず物おじしないことがすごく大事です。未来を考えるとき、10年、20年後の中心は自分たちの世代なんですよね。だからこそ、自分たちの価値観を信じて、企業の社長や役員層に「われわれの価値観はこうです。世界は絶対こう変わるんです」と言えることが重要です。
三山氏
シニアマネージャーやディレクタークラスになると、生み出した未来を大企業の経営層に分かる言葉や表現で伝える必要が出てきます。 相対するクライアントが理解しやすい言葉で、ちょっとはみ出した発想も伝え、咀嚼していただく。それが考え方や行動の変容につながります。
大森
現在の組織構成を教えてください。
三山氏
2022年11月1日時点で、フューチャーストラテジストが5名、フューチャーデザイナーが1名です。近しいケイパビリティを持っている関連部署とも協働しながら進めています。 テクノロジストは現在いませんが、Technology Laboratoryという別の部署のメンバーとも連携しています。
土井氏
まだ組成から見て若いチームですので、今後フューチャーデザイナーやフューチャーテクノロジスト として入社いただく方には、組織立ち上げの役割も大きく担っていただくことになります。
未来に向けた価値をつくり出すキャリアパスを歩みたい方が標準搭載しておくべきスキルや経験を積める環境
大森
具体的な案件事例を教えていただけますか。
三山氏
例えば、10年後のクライアントがどういった趣味趣向をもち、どんな体験を欲しているのか。既存のサービスの範囲を超えてどんなサービスを提供すべきなのか。そして、どんなテクノロジーを使って実現していく道を志向したらよいか、ということを明らかにするためのプロジェクトなどがありますね。 このようなプロジェクトは総力戦になります。フューチャーストラテジストが必要ですし、フューチャーデザイナーが未来のペルソナを読み解き、どういった体験が必要かデザインしなければわからない。そして、どういったテクノロジーで実現するかを考えなければ、絵に描いた餅に終わってしまいます。 フューチャーストラテジストがビジネスプランに落としていく必要があります。
大森
変わる世の中に対して、思考がどう変化していくか。地政学の要素も含まれそうですね。
三山氏
そうですね。未来創造型のプロジェクトでは、『論理構成図』というもっとも大事なアウトプットがあります。2030年、2040年などのターゲットイヤーはこういう未来になると描き、PEST(Politics、Economy、Society、Technology)分析やSTEEP分析(PEST分析にEnvironmentを加えたもの)といわれる外部環境の分析で、どういうイベントがどういう順序で起これば、この未来にたどり着くのかを描くんです。 そして、その中に今は起こらないけれども今後起こり得ることがほどよく混ざっているかを検証するんですね。起こり得ることばかりで未来を描くと、既存の延長線上の未来になってしまうからです。
大森
3つの職域の方々は、どうプロジェクトに取り組まれていくのでしょうか?
全体のプロジェクトプラン設計は最も重要となりますが、3カ月のプロジェクトで何回未来創造セッションを行うか、何をどういう軸で検討するかという設計は、主にフューチャーストラテジストが中心に行うケースが多いです。 そして、未来創造セッションでは、フューチャーデザイナーが、デザインシンキングの考えを用いながら、非連続な思考のセッションを設計していきます。 プロジェクトの内容により、誰がどう担当していくかは異なり、未来の顧客体験デザインなどは、フューチャーデザイナーが全体設計をすることも。テクノロジーに寄った未来であれば、フューチャーテクノロジストがメイン担当になることもあります。
土井氏
私はストラテジストとして、プロジェクトで答える問いを設計することが一番大事な役割だと感じています。 問いの設定が、業界の先を見据える役員層の方々と目線が合ったり、目線を超えていたりするとウィン・ウィンになります。問いを基軸にプロジェクトを立てていくのがストラテジストの役割です。
三山氏
その道何十年の方が既に考えつくした問いを設定してしまうと、「そんなことは分かっているし、知っているよ」となってしまう。その方々が考える思考の枠や軸の範囲を見極め、その思考の外側にあるけれども、受け入れられる変化の振れ幅にある問いであることが重要なんです。 「この問いの答えが出れば、うちの未来の道筋が見えるかもしれない」と思っていただけるような問いであることが重要です。
大森
『Future Design Lab』で働くことで、どんなキャリアを積んでいけるのでしょうか?
土井氏
グローバルでは、未来を考えてビジネスや戦略に生かしていく取り組みが、さまざまな地域で芽が出始めています。日本だけに閉じたケイパビリティではなく、グローバルで求められるケイパビリティとして、もうすぐ芽が出る状況と言えるでしょう。 グローバルな機関や研究所、さらに国単位で新しく未来を考える仕組みを自分たちの中に実装することが始まっており、事業会社では未来創造の専任チームを立ち上げる動きも始まっています。 メジャーなキャリアパスではないですが、自ら新しいポストをつくって進んでいくための能力を培えます。
三山氏
予測不可能な時代、いわゆるVUCAと言われるように、予定調和の未来や定石を打てば勝てるパラダイムではありません。大きな企業であればあるほど、能動的に未来に向けた意思決定を行っていく必要があります。 そのため、チーフ・ストラテジー・オフィサー、チーフ・デジタル・オフィサー、新規事業開発の責任者、イノベーション担当責任者など、未来に向けた価値をつくり出すキャリアを歩む方が標準搭載しておくべきスキルセットや経験を、うちの組織なら間違いなく身に付けられます。
大森
御社のように未来創造コンサルティングを本格的に手掛ける競合他社は少ないのでしょうか。他社と比べた差別化ポイントを教えてください。
三山氏
競合は非常に少ないです。 私はエンジニアやビジネスコンサルタントを経験する一方、大学時代は演劇をしていて、デザインやアートの世界に身を置いていました。その感性から、それぞれは未熟にせよ、自分の中にあるさまざまな要素を自然につなげられると思っていたため、それが未来創造型コンサルティングにつながっています。 「デザイン、テクノロジスト 、ストラテジーの間には、上下左右はなく、みんながインタラクションするからこそ未来はつくれる」というビジョンや姿勢に共感する仲間が集まっていることがまず強みと言えるでしょう。 他のファームに限らず、世界的に見てもそういった姿勢の組織や個人は少ないように感じます。 米国のある教育機関の方と2019年に一度意見交換した際、「君たちみたいなアプローチを大手のファームで組織立って行っているのは、私の知る限り2社目だ」と言われました。そのくらい、新しい取り組みなんだと思います。
土井氏
10年後の未来を考えるためにビジョンをつくる人や、新しいサービスの形をつくる人、ビジネスプランを考えて事業計画をつくる人。 それぞれを行っている人は他のファームにもいると思いますが、私たちはそれぞれのメンバーが有機的につながりをもち、1つのプロジェクトとしてデリバリーできます。この点が最大の差別化となっています。
大森
社内ではどういった位置付けの組織として注目されていますか。
三山氏
私たちの業務に興味を持ち、もっと話を聞きたいという方も多く、注目されているのを感じます。
土井氏
注目されるようになったのは、私たちが社内を説得したからではなく、クライアントのリアクションが予想と全然違ったからだと思います。他のチームの方からも、声が掛かるようになりましたね。 ますます注目度が高まる分野だと思いますので、もっと多くの方に興味を持っていただけるとうれしいですね。
大森
『Future Design Lab』は、自由に動ける立ち位置の組織だからこそ、短期的な数字に追われず、ユニークな未来への発想が生まれるのだなと感じました。
構成・編集:久保佳那 撮影:赤松洋太