EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下EYSC)のアソシエイトパートナーである小池氏は、自動車メーカーの研究職を経験した後、コンサルティング業界に足を踏み入れるという異色の経験を持つ。 小池氏のこれまでのキャリア、求める人物像、今後の展望について話をうかがった。
最先端の車作りの経験を経て、関心は街作りへ
大森
小池さんは新卒で自動車メーカーに入社されましたね。
小池氏
物心ついた頃から車が好きで、「車こそわが人生」という感じで育ちました。「車を作ってみたい、デザインしたい」と思い、本田宗一郎氏に憧れていたんです。就職活動でも途中までは彼が創業者である企業が第一志望でした。しかし、多額の有利子負債を抱えている別の車メーカの企業の存在を知りました。「若いうちに最前線に出たい」という思いがあったため、あえて渦中の後者の企業を選びました。 就職したその会社では研究所に配属され、自動運転の基礎研究に携わりました。今から20年以上前のことで、実際に自動車に自動運転の機能が搭載されるとはとても思えなかった頃です。 その後は燃料電池車や電気自動車の研究や新商品の立ち上げ、回生協調ブレーキシステムの取りまとめなど、自動車業界の最先端技術を一通り経験しました。 2016年頃からは、モビリティサービス研究の責任者になりました。責任者としての最初の仕事は、モビリティサービス企業と協業で行った無人輸送サービスを想定した実証実験でした。
大森
自動車メーカーからコンサルティング業界に転職されることになった、キャリアのターニングポイントについて教えてください。
小池氏
街づくりに携わりたいという思いが強くなっていったからです。きっかけになったのは、2017年に携わった福島県の被災された町での復興スマートモビリティプロジェクトでした。これからの時代に私たちがどんな生活をして、生活の中でどのように移動をして、車がどう必要とされるかを研究する目的で立ち上げたプロジェクトです。
プロジェクトを開始するにあたり、その町の役場や地域住民の方々にディープインタビューをした時に、なんとか故郷に戻ってこようと考えているさまざまな方のお話を聞きました。その時に「震災が多いからこそ、みんなが身軽にどこでも生活できる社会になったほうがいいのではないか」と感じました。そこで自ら「スマートローカル」という領域を立ち上げ、戦略のリードをしました。 また、そのプロジェクトを開始していた町の隣にあり、東日本大震災の帰宅困難区域に指定されていた町に1時間限定で入らせていただいたことがありました。町役場の方が案内しながら熱く話をされたんです。その町にはもともと中学校や高校があったが、みんなが避難したので学校という機能はなくなってしまった。しかし、そのエリアが町としての機能を取り戻すには学校は不可欠なので、また学校を作っていきたい」と。故郷への思いが熱い方だと感じ、いただいた名刺を見たら「国交省派遣者」と書いてあり、とても驚きました。自動車メーカーの社員として自社のコアコンピタンスのためにいる自分とのコントラストが強烈でしたね。 その頃から、「民間企業や行政、地域住民との間に入って、街を作っていくことをオーケストレーションするような仕事をすべきなのではないか」と思うようになりました。そしてそれまで在籍していた企業を退社後、コンサルティングファームから声がかかったんです。「コンサルという立ち位置なら、自分のしたい仕事ができるのではないか」と思い、コンサルティング業界へと足を踏み入れることにしました。
支援先の組織を、社会から求められている状態に変革する
大森
現在、EYではどのような仕事をされていますか?
小池氏
Advanced Manufacturing & Mobilityの領域を担当しています。Advanced ManufacturingについてはIT化の支援はもちろんのこと、人口減少のプロセスに入っている中で、これまでのモノづくりを見直す支援も行っていきたいと考えています。 日本の製造業がこれまでの自社のコアコンピタンスに引きずられてしまうと日本の製造業は時代遅れになってしまう。しかし、社会において製造業は必要不可欠であることは間違いないので、今の時代に求められているものをまた作ることができるかという岐路に立たされていると感じています。 Mobilityの具体的な取り組みとしては、デジタル田園都市国家構想の支援を行っています。デジタル田園都市国家構想とは、これまで供給ドリブンだった日本社会が人口減少のプロセスに入る今、需要側が何を求めているかに立ち返り、供給側や社会をリデザインしていくべきだという考えです。 私たちはモビリティ領域を中心に、需要側のニーズをクリアにし、製造業やインフラ事業をリデザインする部分を担当しています。
大森
社会の変化や需要に対して、大きなうねりを作っていくのは非常に難易度が高いですよね。苦労していることはありますか?
小池氏
私はやりたいことをやり続けているだけなので、あまり苦労を感じていません。車づくりのアナロジーを街づくりに生かしている感覚です。難しいポイントはある程度予測ができるので、その落としどころを戦略として考えていきます。街づくりは関わる関係者が多く、勉強になることが非常に多いので、戦略を考えること自体が楽しいです。
大森
小池さんは前職で研究をしていたご経験があります。1つのことを突き詰めたバックボーンが強みになっていると感じますか?
小池氏
物事を突き詰めて考えることはもともと好きです。だからこそ、研究や技術などに向いているのかもしれません。最先端技術は実は泥臭いことの塊なんです。白衣を着て研究するという側面はありますが、結局のところ「この発見は誰が求めていることなのか?」を探っていく作業なんです。技術を追求すればするほど、実は目線は外に向かっていきます。その経験が今の仕事に生きている部分はありますね。 前職では「研究所は羅針盤だ」と言われ、会社として進むべき道を示し続ける立ち位置でした。私はコンサルティングファームもそうあるべきだと思っています。 ネットに情報があふれている今でも、直接現地に行って自ら問題を知ることが大事です。その作業を繰り返していけば、技術であってもビジネスであっても何が問題かを理解する視点が身につきます。そして、お客さまに対して現場で見てきたことを踏まえて話ができれば、信頼関係にもつながっていきます。 しかし、コンサルファームのフレームワークしかり、自動車メーカーのコアコンピタンスしかりですが、自分たちの会社のフレームワークの中で仕事をし始めてしまいがちです。私たちコンサルタントが本質的にやるべきことは、支援先の組織を社会から求められている状態に変革していくことだと考えています。
大森
技術やアカデミックなど何かを突き詰めてきた人が経験してきたプロセスは、コンサルティング業界でも使えるということですよね。
社会をリデザインしようと考えている人に来て欲しい
大森
コンサルティング業界の経験者以外でしたら、どんな人に応募して欲しいですか?
小池氏
物事を突き詰める人ですね。そして、社会をリデザインしようと考えていることが重要です。何かしらの専門性を持ち、突き詰めて行動している人がいいですね。何かを突き詰めていくと、必ず超えるのが難しいポイントに遭遇するものです。それをどう越えていくかを考えて実践し、実践して学んだことを伝えていく――そんな経験をしている人なら、自チームやお客さまにも難しいポイントを超えていくことができます。 自分が追い求めようとしている理想的な姿を考えることが、戦略の第一歩だと思っています。理想像が見えるからこそ、そこに至るまでの段階を短期・中期・長期で捉えてアプローチしていけます。 自分のチームに関しては、自ら理想に向かって行動する人たちを集めて、クライアントと丁々発止のやり取りをして欲しい。クライアントの心証を悪くすることを恐れずに、「私はこうあるべきだ」と言える人に来て欲しいですね。その提案を受け入れるかどうかはお客さまの問題だという割り切りも必要です。 昔からそうですが、自分の言葉で話せる人と仕事をしたいと思っています。幸いにもそんなメンバーに囲まれて仕事をしています。
大森
マネジメントをする上で大事にしていることはありますか?
小池氏
大事にしていることは2つあります。1つは率先垂範していくことです。まず自分が飛び込んで体感した上で、若手を巻き込んでいくようにしています。メンバーには「自分の好奇心に忠実になりなさい」とよく話します。例えば、自分が興味のあることが、まだ分野として確立されていなくてもいく――世の中に認められている分野しかやらないのではなく、自ら分野を作るくらいの気概でいて欲しいです。 もう1つは、ブラインドタスクは渡さないことです。私の上司もそうだったのですが、まずすべてを自分が実践して見せるようにしています。守破離の考え方ですよね。 最初はまねをしてみる。そこから自分の好奇心を入れて、自分なりのスタイルを作っていく。気づけばその人らしい世界観ができているのが理想です。 そのレベルに到達してさまざまな業界の人と連携していくと、仕事がものすごく楽しいんですよね。自分の世界観を社会に見せ続けることができれば、お客さまはいつの間にかついてくると思います。
大森
小池さんの想いや、好奇心を突き詰めるというスタイルが広がっていきそうですね。
小池氏
EYSCに入社する前に、「 Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」というパーパス(存在意義)を知り、自分の考えと共通点を感じました。少しおこがましいですが、コンサルタントの本来の価値は、日本にどれだけ貢献したのか、経済やQOLをどれだけ引き上げることができたかだと思うんです。自社の売上のためにコンサルをしているのではなく、価値を提供できた対価として利益を上げたというアプローチであってほしい。EYSCはそうありたいと考えているコンサルティングファームです。
大森
小池さんの今後の展望について教えてください。
小池氏
「あの街は自分が作った」と言える街づくりを手掛けたいと思っています。現在大きく2つ手掛けていて、1つはデジタル田園都市国家構想の中で行政の強い意志を引き継いで進めています。もう1つは関東圏のとある市全体の移動をデザインしてほしいという依頼を個人で受け、進めてきました。今年でプロジェクトは3年目になり、本年度はEYとして引き受けました。 その市はお寺が多くある地域で空爆を受けていないので、歩きたくなる街並みが残っているんですよね。そのエリアのように歩くことが楽しくなるような街をどんどん作っていきたいと思っています。 現在担当しているお客さまは中央省庁や地方公共団体、インフラ事業、製造業、通信キャリア、ファイナンスと多岐にわたります。バラエティーに富んだお客さまをつなげていけることが、街づくりに携わる醍醐味です。
大森
コンサルタントがスキルを生かしながら、段階的にキャリアチェンジできる環境があるのですね。実際に興味を持つ方は多いと思います。
構成・編集:久保佳那 撮影:赤松洋太